ReDelta
インドネシア外資規制海外M&A

インドネシアのオムニバス法:その改正内容と影響

  • はじめに
  • オムニバス法のビジネスへの影響
  • 法改正前後の比較
  • 旧制度(ネガティブリスト)
  • 新制度(ポジティブリストへの転換)
  • 特定の業界への影響
  • 製造業への影響
  • サービス業への影響
  • IT・デジタル分野への影響
  • リスクと不確実性
  • 法制度の安定性リスク
  • 実務運用上の不確実性

はじめに

インドネシアの雇用創出オムニバス法(2020年法律第11号、通称Job Creation Law)は、国内の雇用機会を増大させるために投資拡大を促進することを目的として制定されました。 ジョコ・ウィドド政権の下、従来は分野ごとに複数存在していた投資・事業関連規制の重複や矛盾を解消し、ビジネス環境を抜本的に改善する狙いがありました。同法は2020年11月に成立・施行され、15章からなり実に約77本の法律・186条項を一本化する包括的な内容となっています。インドネシア政府はこの「オムニバス法」により煩雑な許認可手続きの簡素化、外国直接投資の促進、労働市場の柔軟化など大規模な規制改革を一挙に実現し、国際競争力とビジネス環境の向上を図ろうとしています。 本記事では、オムニバス法がビジネスにどのような影響を与えたのかを説明し、改正前後の変化や具体的にどの業界が影響を受けたのかを解説します。

オムニバス法のビジネスへの影響

オムニバス法には、事業許認可、投資条件、労働法制、中小企業振興、事業運営の利便性向上、土地取得手続き、経済特区整備など11の分野にわたる改正が含まれています。 例えば、事業許認可制度については、従来の「全業種で許認可必須」という画一的な規制から、リスクベース・アプローチへ転換されました。事業の安全性・環境影響などのリスク度合いに応じて4段階に分類し、リスクの低い事業は届出のみで許可不要とし、高リスク事業は厳格な許可が求められるなど、必要な手続きが明確化されています。 これにより、低リスク分野のビジネスの立ち上げが容易になり、新規参入のハードルが下がる効果が期待されています。 また、労働法制の緩和(有期雇用契約期間の延長、解雇時の補償金削減など)や環境許認可手続きの簡素化も盛り込まれ、企業にとっては従業員管理やプロジェクト実施の柔軟性が向上しました。 このように、オムニバス法はインドネシアのビジネス環境を大きく変える転換点となっており、外国企業にとっても規制緩和による新たなビジネス機会の創出が期待されています。

法改正前後の比較

旧制度(ネガティブリスト)

オムニバス法施行前、インドネシアの外国投資規制は「ネガティブリスト」と呼ばれる方式で管理されていました。歴代の大統領令で業種ごとに外国資本出資比率の上限や禁止分野が細かく定められ、リストに掲載されていない分野のみが原則として100%外資出資を認められていました​。 2016年の大統領令第44号(NIL)では300以上の事業分野で外資参入制限や禁止措置が規定され、多くのサービス業や特定産業で外資比率の上限(例:通信事業は67%まで等)が設定されていたのです​。 ネガティブリスト方式は保護主義的色彩が強く、外国資本にとってインドネシア進出の大きな障壁となっていました。

新制度(ポジティブリストへの転換)

オムニバス法に基づき、2021年2月に公布された大統領令第10号(改正後の2021年大統領令第49号)によって投資分野リストの抜本改定が行われました​。 最大の変更点は、「原則自由・例外禁止」のポジティブリスト方式への転換です。すなわち特定の禁止・制限分野を除き、全ての事業分野が外国投資に開放されると明記されました​。具体的な内容については、「【インドネシア】進出時の外資規制について徹底解説」に詳細が記載されており、より詳しい情報を知りたい方はそちらを参照してください。

特定の業界への影響

オムニバス法による規制緩和は幅広い業種に及びますが、ここでは特に製造業、サービス業、IT・デジタル分野への影響を中心に、進出が容易になった分野と依然として課題が残る分野を見ていきます。

製造業への影響

インドネシアの製造業(加工業)にとって、オムニバス法は投資環境の改善と人件費の柔軟化という二つの点で追い風となりました。

まず投資規制の面では、従来一部で外資出資比率の上限があった食品飲料、化学、医薬品等の製造分野でも規制緩和が進み、海外企業が100%出資の現地法人を設立しやすくなりました​。医薬品製造・流通では外資規制が撤廃され、工場建設から販売まで一貫して外資系企業が行えるようになっています​。 輸出志向型の製造業やインフラ関連製造(鉄道車両や発電設備など)は優先業種に指定されており、税制優遇などインセンティブを享受できます​。 製造業は多くの労働者を雇用する必要があるため、解雇補償金や契約更新ルールが事業コストに直結しますが、新法では有期契約労働の最長期間が延長され更新制限が実質緩和されたほか、累積解雇手当の上限引下げにより企業側の人件費負担リスクが軽減されました​。この結果、季節変動や景気変動に応じて労働力を調整しやすくなり、製造業にとってインドネシア工場の運営がしやすくなりました。

サービス業への影響

サービス業全般にも外資規制緩和の恩恵が及んでいます。物流・運輸サービスでは顕著で、従来は外資出資が制限されていた貨物運送取扱(フォワーディング)事業や倉庫業、港湾ターミナル運営などが100%外資に解放されました​。 これにより、日本の物流企業も現地パートナー無しで自社で法人を設立し、倉庫網や輸配送サービスを展開できるようになっています。 卸売・小売流通についても、大規模卸売業は外資単独で展開可能となり​、参入しやすくなりました。金融・保険サービスは銀行法や保険法といった個別法で規制がありますが、Fintech等一部の新興分野では規制緩和の動きがあります。 また、観光・娯楽サービスでは、ホテル業は元々外資に開放されていましたが、オムニバス法を受けて地域振興目的の観光開発プロジェクトが優先業種に指定されるなど追い風となっています。 医療・教育サービスも変化が大きい分野です。病院・クリニック経営は外資参入が容易になり​、外国大学のインドネシア分校開設も条件付きで可能となるなど(高等教育法改正による)サービス分野の国際化が進みつつあります。

IT・デジタル分野への影響

IT・デジタル分野はオムニバス法の恩恵を大きく受けた代表的な業種です。 まず、通信インフラ・ITサービスについて、前述の通り通信事業(ISP事業やデータ通信サービス等)の外資規制撤廃​により、通信キャリアやデータセンター事業への外資参入余地が広がりました。例えば日本の通信関連企業が現地でデータセンターを設立したり、クラウドサービス基盤を構築したりすることが100%子会社で可能となっています。 次にデジタルプラットフォーム/eコマース分野の改革です。従来、電子商取引(オンラインマーケットプレイス等)の事業では投資額が1兆ルピア(約70億円)未満の場合は外資出資49%までといった規制があり、小規模なスタートアップ企業への外国資本参加が制限されていました。 しかし、ポジティブリスト導入によりこの規制は撤廃され、商業目的のウェブポータル・デジタルプラットフォーム事業は投資額に関係なく100%外資に開放されています​。これにより、創業間もない現地スタートアップ企業にも海外VCや事業会社が自由に出資できるようになり、インドネシアのデジタルビジネス市場にとって画期的な追い風となりました。

リスクと不確実性

規制緩和が進んだ一方で、以前としていくつかのリスク要因も存在します。

法制度の安定性リスク

オムニバス法が成立直後に憲法裁の是正命令を受けました。 インドネシア国内では本法を巡る政治・社会的な議論が継続しており、特に労働法制の改訂部分に関して労働組合や野党勢力が強く反発しており、将来的な政権交代や裁判所判断によって細則の一部が見直される可能性も否定できません。 実際、裁判所判断に従い2023年には手続面の補正が行われましたが、その後も労働者保護に関する追加修正を求める声が上がっています。

実務運用上の不確実性

法律上は大幅な規制緩和が実現していても、現場レベルで許認可手続きが円滑に進むかは引き続き注視が必要とされています​。新しいOSSシステムやリスク評価制度になじむまで行政当局側にも試行錯誤があるとみられ、申請処理の遅延や判断のばらつきといった過渡期特有のリスクを織り込んでおく必要があります。 さらに、外資規制緩和に伴い競合他社も進出を加速させることが予想され、市場競争の激化という側面もリスクと言えます。特にデジタル分野などでは各国企業がこぞってインドネシア市場を狙っているため、出遅れればシェア獲得が難しくなる可能性があります。以上のように、制度そのもののリスクと市場競争リスクの双方に目を配り、慎重かつ迅速な意思決定が求められます。 リデルタは日本企業が東南アジアの成長を取り込み、アジアでのプレゼンスを高めるべく挑戦する日本企業のために進出支援コンサルティングおよび東南アジアM&Aサービスを提供しています。インドネシア外資規制の最新動向、M&A、合弁戦略、販路開拓支援などを通じて、企業の市場参入リスクを軽減し、スムーズな事業展開をサポートします。 「インドネシア進出」「東南アジアM&A」を検討している企業様は、ぜひ無料相談にてお気軽にご連絡ください。リデルタは、日本企業の東南アジア進出の成功を全力でサポートいたします。

「送り出す前に育てる」時代へ──トヨタ・ヤマト運輸が示す人材育成パッケージの新潮流

【保存版】ベトナム〜ラオス:国別・制度別で選ぶ東南アジアの送り出し機関

今こそ知りたい!ベトナム技能実習マーケット完全ガイド

今こそ知りたい!インドネシア技能実習マーケット完全ガイド

東南アジア保険市場“次の主戦場”――日系企業が今こそ参入すべき国とセグメントを徹底解説

Agoda騒動が教える現代ホテル流通の真実――「だれが売り」「だれが運び」「だれが支払うか」を徹底解説

外国人材受け入れ制度の“いま”と“これから”──技能実習・育成就労・特定技能を総ざらい

外国人技能実習制度を“ゼロから理解”──なぜ増えているのか?

東南アジア美容医療“次のユニコーン”はどこだ? 成長国別チャンスと落とし穴

ASEAN医療ハブの覇権を握れ!タイ・マレーシア私立病院連合M&A戦略完全ガイド

冷凍革命×都市型倉庫──ジャカルタで始まるダークストア覇権ゲーム

南国リゾート再編のリアル──観光V字回復を牽引するベトナム&フィリピンのホテル再生戦略

インドネシアのブルー・カーボン最前線:日本企業が押さえるべきカーボン・クレジット戦略

拡大する新興中間層、変わる消費者構造──ベトナム・マレーシア

今、東南アジアで林業が注目される理由とは? 〜日本企業がM&Aで狙うべき戦略的チャンス〜

東南アジアへ挑む日本の食肉企業―成長市場への参入戦略とポイント

登録

貴社の課題を ご相談ください

M&A戦略、案件ソーシング、外資規制。 東南アジアM&Aには各国ならではの様々な課題が潜んでいます。 進出の検討から案件紹介まで幅広く対応しているので、まずはお気軽に相談ください。

Contact

お問い合わせ

貴社の課題をご相談ください

ニュースレター登録

東南アジアM&A、東南アジア市場に関する最新知見をお届けします。