インドネシアの財閥:多角経営の巨人たち
- はじめに
- インドネシアに存在する30の財閥
- 財閥の成り立ちと華人との関係
- 華人資本とインドネシア財閥の形成
- アジア通貨危機:財閥の試練と再編成
- インドネシアの大手財閥7社
- Salim Group(サリム・グループ)
- 概要
- 歴史と成長
- 主要企業
- 最近の動向
- Astra International(アストラ・インターナショナル)
- 概要
- 歴史と成長
- 主要企業
- 最近の動向
- Sinar Mas Group(シナル・マス・グループ)
- 概要
- 歴史と成長
- 主要企業
- 最近の動向
- Djarum Group(ジャルム・グループ)
- 概要
- 歴史と成長
- 主要企業
- 最近の動向
- Lippo Group(リッポー・グループ)
- 概要
- 歴史と成長
- 主要企業
- 最近の動向
- Gudang Garam(グダン・ガラム)
- 概要
- 歴史と成長
- 主要企業
- 最近の動向
- Barito Pacific(バリト・パシフィック)
- 概要
- 歴史と成長
- 主要企業
- まとめ
はじめに
インドネシアでビジネスを始めるうえで避けては通れないのがインドネシアの財閥です。 かつては日本にも存在した財閥ですが、戦後GHQの命令のもと財閥は解体されました。 財閥は多くの場合、国家の経済発展の初期段階で形成されます。 資本主義が発展する過程で政府と密接に結びついた起業家が出現し、国家のインフラや産業基盤を築く役割を果たします。 インドネシアの財閥は、スハルト政権下で政府の保護を受けながら成長しましたが、政府が選んだ一部の企業に資源を集中させることで、急速な経済発展を目指すことがしばしばあります。 最近ではトヨタとアストラが「トヨタ・アストラ・モーター(TAM)」という合弁会社を設立し、インドネシア国内でトヨタ車の製造と販売を行っていますし、アサヒグループは、インドネシアのサリムグループと合弁会社「Asahi Indofood Beverage Makmur」を設立し、飲料市場に進出しています。 このように、日本企業がインドネシアでビジネスを行っていくためには財閥についての理解を深めることは一ビジネスパーソンとして必須であると言えます。
インドネシアに存在する30の財閥
インドネシアには約30の財閥、またはコングロマリットと呼ばれる多角経営の企業グループが存在します。 これらの企業は、資源系や農林業をはじめ、自動車、不動産、小売り、物流など幅広い産業に進出しており、金融サービスやIT関連ビジネスにも強い影響力を持っています。 財閥の動向を知ることなしにインドネシアでビジネスを成功させることは難しいでしょう。
財閥の成り立ちと華人との関係
インドネシアの経済は「プリブミ」(原住民資本)と「ノン・プリブミ」(非原住民資本)という二つの資本によって支えられています。 特に「ノン・プリブミ」は華人資本を指しており、19世紀後半には中国からの移民が増え、彼らは小規模な商売から始め、次第に大規模なビジネスを展開していきました。 現在、インドネシアの人口の約4%を占める350万人ほどの華人が、経済に対して圧倒的な影響力を持っています。 財閥上位3社の創始者も華人であり、財閥30社のうち20社以上が華人資本によるものです。
華人資本とインドネシア財閥の形成
1980年代以降、華人のビジネスマンはスハルト政権と密接な関係を築き、公共事業から民間事業まで幅広く関与しました。 1980年代初頭までのインドネシアは、あらゆる産業が未開拓で、ビジネスの担い手がほとんどいない状況でした。 このため、華人資本が主要産業分野で次々と商権を握り、自動車分野のアストラインターナショナルや製紙分野のシナルマスなど、市場で圧倒的なシェアを占める企業が誕生しました。
アジア通貨危機:財閥の試練と再編成
1997年にタイを震源とした「アジア通貨危機」はインドネシアにも大きな影響を与えました。経済は事実上破綻し、スハルト政権は退陣。多くの金融機関が不良債権を抱え、財閥も大きな打撃を受けました。 サリムグループはバンク・セントラル・アジア(BCA)を保有していましたが、経営悪化から政府の預金保険機構が救済に乗り出しました。 その後、ハルトノファミリーが経営に参画し、サリムグループはBCAの株式をわずかに保持するにとどまりました。一方で、経営環境の悪化により、シンガポールや香港の財閥の支援で立て直しを図った企業もあります。 インドネシアの財閥は、その多様な事業領域と影響力から、国の経済において重要な役割を果たしています。彼らの歴史と成長の軌跡を理解することは、インドネシアでのビジネスを成功させるために不可欠です。
インドネシアの大手財閥7社
| 会社名 | 創業者 | 設立年 | 事業ドメイン | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Salim Group | Sudono Salim | 1950 | 小売り、食品、電気通信、自動車、IT、農業 | インドネシア最大の財閥の1つ。インスタント麺indomie、コンビニIndomaret、自動車メーカーIndomobil Groupを傘下に持つ。 |
| Astra International | William Soeryadjaya | 1957 | 自動車、金融、農業、重機、物流 | 日本企業と提携し、インドネシアの自動車市場で優位。最近は中古車売買のオンラインプラットフォームを立ち上げた。 |
| Sinar Mas Group | Eka Tjipta Widjaja | 1962 | 製紙、金融、不動産、パーム油 | 同族経営で、製紙、金融、不動産の事業を展開。日本企業とのインフラ開発事業も行う。 |
| Djarum Group | Oei Wie Gwan | 1951 | たばこ、不動産、金融、家電 | クレテックたばこで成功。不動産、ホテル、銀行などにも事業を多角化。 |
| Lippo Group | Mochtar Riady | 1948 | 金融、不動産、IT、小売り、外食 | 銀行業から始まり、不動産開発やIT、小売り、外食にも進出。都市開発事業にも力を入れる。 |
| Gudang Garam | Surya Wonowidjojo | 1958 | たばこ、石油化学、食品製造、パーム油 | たばこ事業が主。石油化学や食品製造、パーム油事業にも展開。 |
| Barito Pacific | Prajogo Pangestu | 1979 | 石油化学、林業、プランテーション | インドネシア唯一のナフサクラッカーを所有。石油化学、地熱発電などで業績を伸ばす。 |
Salim Group(サリム・グループ)
概要
Salim Groupは、インドネシア最大の財閥の一つで、小売り、食品、電気通信、自動車、IT、農業など幅広い事業を展開しています。創業者は華人のSudono Salim(スドノ・サリム)氏で、現在は三男のAnthoni Salim(アンソニ―・サリム)氏が会長を務めています。
歴史と成長
1950年代、Sudono Salim氏は軍に物資を供給することで、当時の軍司令官で後に大統領となるSoeharto(スハルト)氏と関係を深め、事業を成功に導きました。一度はアジア通貨危機により崩壊寸前に陥りましたが、息子のAnthoni Salim氏が会長に就任してから再建されました。
主要企業
Indofood:世界的に有名なインスタント麺ブランド「indomie」を製造しています。Indomaret:インドネシア最大級のコンビニチェーン。 Indomobil Group:日本のスズキや日野自動車と合弁事業を行う自動車メーカー。
最近の動向
Salim Groupは最新技術やトレンドに積極的に対応しており、メタバースプラットフォームの開発やインドネシア語版ポケモンカードの発売など、新しい事業にも取り組んでいます。
Astra International(アストラ・インターナショナル)
1957年に華人のWilliam Soeryadjaya(ウィリアム・スリヤジャヤ)氏が創業したAstra Internationalは、自動車事業を中心に事業を展開する財閥です。トヨタやダイハツ、ホンダと提携し、インドネシアの自動車市場で優位な地位を築いています。
William Soeryadjaya氏は貿易会社としてスタートし、息子のEdward Soerjadjaja(エドワード・スリヤジャヤ)氏が銀行事業に失敗し一時は株式の76%を手放す危機に陥りましたが、日本の自動車会社と提携し事業を拡大しました。
Toyota Astra Motor:トヨタ車の販売を担当。 Astra Daihatsu Motor:ダイハツ車の製造・販売を行う。
中古車売買のオンラインプラットフォームを立ち上げ、食品のインターネット販売や遠隔医療のスタートアップへの出資など、デジタル分野で新たな事業に挑戦しています。
Sinar Mas Group(シナル・マス・グループ)
Sinar Mas Groupは、華人のEka Tjipta Widjaja(エカ・チプタ・ウィジャヤ)氏が創業した財閥で、製紙、金融、不動産、パーム油など幅広い事業を展開しています。
Widjaja氏は貧困家庭の出身で、起業には多くの困難がありましたが、家族の連携を重んじた同族経営で成功を収めました。長男のTeguh氏には紙パルプ、三男のIndra氏には金融、四男のMuktar氏には不動産を引き継がせました。
Asia Pulp and Paper:アジア最大規模の製紙会社。 Golden Agri Resources:ヤシの栽培からパーム油を使った商品の販売までを手がける。
2020年には日本の海外交通・都市開発事業支援機構と手を組み、インドネシアのインフラ開発を推進するためのシンガポール法人を設立しました。
Djarum Group(ジャルム・グループ)
Djarum Groupは、たばこ銘柄の「Djarum」で知られ、現在は不動産開発、金融、家電の製造販売など多角的に事業を展開しています。創業者は華人のOei Wie Gwan(オエイ・ウェイ・グワン)氏です。
たばこ事業で成功を収めた後、不動産やホテル、銀行など事業の多角化を進め、ジャカルタの大型ショッピングモール「Grand Indonesia」の開発や、Bank Central Asia(BCA)の経営権を取得するなどしました。
Djarum:たばこ製造販売。 Bank Central Asia:インドネシア最大の民間銀行の一つ。
食品の配達や配車を行うスーパーアプリ「Gojek」、オンライン医療のスタートアップ「Halodoc」に積極的に投資しています。
Lippo Group(リッポー・グループ)
Mochtar Riady(モフタル・リアディ)氏が創業したLippo Groupは、金融、不動産、IT、小売り、外食など幅広い事業を展開する財閥です。1948年にLippo Bank(リッポー・バンク)として設立されました。
金融業界で成り上がり、インドネシアの銀行業界に大きな変革をもたらしました。その後、不動産事業にも進出し、ジャカルタの西にあるTangerang(タンゲラン)に「Lippo Village」という都市開発プロジェクトを展開しました。
Matahari Department Store:大手百貨店。 Hypermart:スーパーマーケットチェーン。
2019年にはソフトバンクと提携し、不動産や交通エコシステムにAIやIoTを活用し、さらなる発展を目指しています。
Gudang Garam(グダン・ガラム)
Djarum Groupのライバル企業であるGudang Garamは、香料を混ぜたクレテックたばこの生産で知られています。創業者は華人のSurya Wonowidjojo(スーリヤ・ウォノウィジョジョ)氏で、現在は息子のSusio Wonowidjojo(スシオ・ウォノウィジョジョ)氏がCEOを務めています。
たばこ事業のほか、石油化学や食品製造にも事業を拡大しています。また、日本のお菓子メーカーLOTTEとの提携で製品を製造・販売するなど、事業の多角化を進めています。
Gudang Garam:たばこ製造販売。 LOTTE Indonesia:食品製造。
1990年代からパーム油事業にも進出し、現在はSusio Wonowidjojo氏がMakin Groupを通じてパーム油事業を展開しています。
Barito Pacific(バリト・パシフィック)
Barito Pacificは、石油化学、林業、プランテーションなどを手がける財閥です。1979年に華人のPrajogo Pangestu(プラジョゴ・パンゲスト)氏によって設立されました。
1993年にインドネシア証券取引所に上場し、2007年には石油化学メーカーChandra Asri Petrochemicalを買収。2021年には売上高45兆ルピアを記録し、地熱発電事業も好調に推移しています。
Chandra Asri Petrochemical:石油化学製品の製造。 Star Energy Geothermal:地熱発電事
まとめ
今回日本では馴染みのない財閥について説明しましたが、インドネシアをはじめとした東南アジアで一定規模の事業を作ろうとする場合には、財閥との連携は避けて通れない道となります。 裏を返せば財閥と組む何かしらのネットワークを有していれば、一気にインドネシアで事業を拡大するファストパスを有しているとも言えます。 インドネシアという一見複雑でハードルが高く見える市場ですが、東南アジアの成長を取り込み、アジアでのプレゼンスを高めるために挑戦する日本企業をサポートするべく、リデルタは専門的な進出支援コンサルティング、東南アジアM&Aサービスを提供しています。 現在240名を超えるローカルエージェントを有するリデルタは現地のビジネス慣習やマーケットを深く理解しており、またたくさんの現地販路のネットワークをもっている強力なパートナーもご紹介可能です。 東南アジアでのビジネスを成功させるためには現地でのパートナーシップが、東南アジアM&Aが最も成功確率を高める経営の一手となります。 リデルタはインドネシアだけでなく、ベトナム、マレーシアの案件も多数取り扱っているので、東南アジアへの進出、海外M&Aをご検討の企業の方はまずは無料相談までご連絡ください。
「送り出す前に育てる」時代へ──トヨタ・ヤマト運輸が示す人材育成パッケージの新潮流
【保存版】ベトナム〜ラオス:国別・制度別で選ぶ東南アジアの送り出し機関
今こそ知りたい!ベトナム技能実習マーケット完全ガイド
今こそ知りたい!インドネシア技能実習マーケット完全ガイド
東南アジア保険市場“次の主戦場”――日系企業が今こそ参入すべき国とセグメントを徹底解説
Agoda騒動が教える現代ホテル流通の真実――「だれが売り」「だれが運び」「だれが支払うか」を徹底解説
外国人材受け入れ制度の“いま”と“これから”──技能実習・育成就労・特定技能を総ざらい
外国人技能実習制度を“ゼロから理解”──なぜ増えているのか?
東南アジア美容医療“次のユニコーン”はどこだ? 成長国別チャンスと落とし穴
ASEAN医療ハブの覇権を握れ!タイ・マレーシア私立病院連合M&A戦略完全ガイド
冷凍革命×都市型倉庫──ジャカルタで始まるダークストア覇権ゲーム
南国リゾート再編のリアル──観光V字回復を牽引するベトナム&フィリピンのホテル再生戦略
インドネシアのブルー・カーボン最前線:日本企業が押さえるべきカーボン・クレジット戦略
拡大する新興中間層、変わる消費者構造──ベトナム・マレーシア
今、東南アジアで林業が注目される理由とは? 〜日本企業がM&Aで狙うべき戦略的チャンス〜
東南アジアへ挑む日本の食肉企業―成長市場への参入戦略とポイント
登録
貴社の課題を ご相談ください
M&A戦略、案件ソーシング、外資規制。 東南アジアM&Aには各国ならではの様々な課題が潜んでいます。 進出の検討から案件紹介まで幅広く対応しているので、まずはお気軽に相談ください。