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インドネシアのブルー・カーボン最前線:日本企業が押さえるべきカーボン・クレジット戦略

  • 1. はじめに
  • 2. ブルー・カーボン注目の背景
  • ブルー・カーボンとマングローブ林
  • なぜブルー・カーボンなのか
  • GXリーグとクレジットニーズ
  • 3. インドネシアのブルー・カーボン市場の事例
  • 国営企業SMIとカーボンクレジット取引所の創設
  • 州政府主導の保全区形成
  • クレジット創出と鉱山開発の統合モデル
  • 4.日本企業の現状と今後
  • 必要性は理解しているが、手はまだ届いていない
  • なぜ「今」なのか
  • 5.まとめ

1. はじめに

近年、インドネシアで「ブルー・カーボン」と呼ばれる海洋由来のカーボン・クレジットが大きな注目を集めています。 特に2023年以降、インドネシア政府は国内初のカーボン・クレジット取引所を開設し、自然生態系から炭素クレジットを創出する制度整備を加速させました。ジョコ・ウィドド大統領も「インドネシアは削減目標の60%を自然部門が担う世界唯一の国であり、炭素クレジット化可能なCO2は約10億トンにのぼります。 自国の炭素取引の潜在市場規模は数千兆ルピアに達する」と述べており、ブルー・カーボンを含む自然由来の排出削減が国家戦略として位置付けられています。こうした背景には、世界的な脱炭素化の流れやESG投資の高まりがあり、企業も自社の温室効果ガス排出を相殺する手段としてカーボン・クレジットに熱い視線を注いでいます。 本稿では、インドネシアにおけるブルー・カーボン市場の展開を概観し、日本企業がこの潮流にどう関与できるかを考察します。

2. ブルー・カーボン注目の背景

ブルー・カーボンとマングローブ林

ブルー・カーボンとは、海洋および沿岸生態系(マングローブ林、塩性湿地、海草藻場など)によって隔離・吸収される炭素のこと。

ブルーカーボンの代表的なものはマングローブ林で、海岸沿いに生育するマングローブは陸上の熱帯林よりも高密度に炭素を貯蔵できるとされています。 実際、ヘクタール当たりの炭素貯蔵量は熱帯雨林の最大5倍にもなるとの研究もあり、気候変動対策として非常に注目されています。またブルー・カーボン生態系には、単にCO2を吸収するだけでなく、沿岸を高潮や波浪から守る防波林機能、水質浄化、生物多様性の保全といった多面的なメリットがあります。 陸上の森林保全ではしばしば現地住民の土地利用との衝突が問題になりますが、マングローブなど沿岸域の保全・再生は漁業資源の回復など地域経済にも恩恵をもたらしやすく、住民と協調しながら進めやすいと期待されています。

なぜブルー・カーボンなのか

世界的な脱炭素とESG投資の潮流も、ブルー・カーボンへの関心を押し上げています。 パリ協定の下で各国がネットゼロ目標を掲げ、企業も自主的な排出削減目標を設定する中、排出量の削減だけでは追いつかない部分を埋める手段としてカーボンクレジットは不可欠な存在となりました。 特にESG投資家は企業の気候対策や自然資本への配慮を重視するため、森林や海洋を活用した自然由来のオフセットは高い評価を受けます。 例えばブルー・カーボン・クレジットはその生態系サービスの価値から市場でもプレミアムが付く傾向があり、2022年にシンガポールのCIX(Climate Impact X)で実施された試験オークションでは1トンあたり27.8米ドルという価格で落札されました。 これは同年の他の一般的なクレジット相場より約40%高い水準であり、海洋生態系による炭素吸収への期待の高さを物語っています。

GXリーグとクレジットニーズ

GXリーグと日本企業のクレジットニーズも無視できない要因です。 GXリーグとは、日本政府(経済産業省)が主導する企業連合でグリーントランスフォーメーションリーグの略称です。 脱炭素移行を成長の機会ととらえ、産官学でカーボンプライシング制度や新ビジネスの創出に取り組む枠組みです。 2023年度から試行的なGX-ETS(自主的排出量取引制度)が開始され、参加企業は自主目標達成のため排出枠の売買を行っています。 参加企業数は年々増加し、2023年6月時点で566社、2024年度には747社に上りました。彼らは2050年カーボンニュートラルに向けて削減努力を続ける一方、不足分を埋めるクレジットにも関心を寄せています。 GXリーグ基本構想でも、国内クレジット市場の創設や海外オフセットの活用が示唆されており、日本企業は質の高いクレジットを求めて海外に目を向けているのです。 特にインドネシアは、日本企業との二国間クレジット制度(JCM)のパートナー国でもあり、地理的・政治的なつながりも深いため、有望な調達先と見られています。

3. インドネシアのブルー・カーボン市場の事例

インドネシアにおけるブルー・カーボン市場の具体的な展開について見ていきましょう。 インドネシア政府は制度面と実務面の双方で環境価値の市場化を進めており、その中心となるのがカーボンクレジット取引所の創設と関連制度の整備です。

国営企業SMIとカーボンクレジット取引所の創設

インドネシア財務省傘下の国営インフラ金融会社PT SMIは、気候変動対策資金の動員に重要な役割を果たしてきました。 同社はグリーンボンド発行など国内で先駆的な取組を行い、政府のカーボンプライシング政策立案にも関与しています。 その流れを受け、金融庁(OJK)はインドネシア証券取引所に対しカーボン取引市場の開設を正式に認可し、「IDXカーボン取引市場」が始動しました。この市場では、大きく分けて2種類の炭素クレジットが取り扱われます。 ひとつは発電所など規制対象事業者に割り当てられた排出枠であるPTBAE-PU、もうひとつは自主削減プロジェクトから生まれた排出削減証明書(SPE-GRK)です。 前者はいわばコンプライアンス市場、後者が自発的オフセット市場に対応し、それぞれ同取引所上で売買されています。 初日の取引では、国営石油会社傘下の地熱発電プロジェクト由来のCO2換算46万トン分のクレジットなど13件が1トン当たり約69,600ルピア(約4.5米ドル)で売買されました。また、政府は「2030年に向けて年取引量を拡大し、国内外の投資を呼び込む」と意気込んでおり、制度の本格稼働に向けて取引対象の拡充や参加主体の拡大を図っています。

州政府主導の保全区形成

中央政府だけでなく、地方レベルでもブルー・カーボンを軸にした取組みが広がっています。 インドネシア東部の西パプア州は2015年に「保全州」を宣言して以降、持続可能な開発に力を入れてきました。特に豊かなマングローブ林を擁するビントゥニ湾やカイマナ地区では、州政府がマングローブ生態系を重要生態系エリアとして法的に指定し保全するための州規則を制定し、これを基盤にブルー・カーボン・クレジットの創出を目指しています。 一方、スマトラ島のリアウ州など西部地域でも、沿岸マングローブの大規模な保全・再生プロジェクトが進行中です。 リアウ州沿岸は長年のアブラヤシ農園開発やエビ養殖池造成でマングローブ減少が深刻でしたが、近年は州政府やNGOが協力して「ブルーカーボン州戦略」を策定し、重点地域を保護区に指定する動きがあります。 例えば世界銀行支援の「沿岸回復力向上プロジェクト」では、リアウ州を含む4州でコミュニティ主体のマングローブ復元が進められており、2027年までに数千ヘクタールの再植林と炭素測定が計画されています。 こうした地方発の取り組みは、国全体の気候目標にも合致するため中央政府も支援しており、将来的に地域発行のクレジットを国内取引所や国際市場で流通させることが期待されています。

クレジット創出と鉱山開発の統合モデル

インドネシアのブルー・カーボン市場にはユニークな構想もあります。 それは、鉱山開発プロジェクトと環境保全を組み合わせる統合モデルです。 特に注目されるのがニッケルの製錬に用いられるHPAL(高圧酸浸出)プロジェクトとの連携です。ニッケルはEV向け電池材料として需要が急伸していますが、採掘・製錬時の環境負荷やCO2排出も問題視されています。 そこで、一部の開発事業者や投資家は「カーボンニュートラル・ニッケル」を掲げ、採掘サイト周辺でマングローブ林の保全・植林を行ってカーボンクレジットを創出し、そのクレジットで鉱山操業由来の排出を相殺するモデルを模索しています。 例えばインドネシア東部の島嶼で新設中のHPAL製錬所では、沿岸マングローブの保護活動と併せて運営計画を立て、国際認証のクレジット創出を狙う動きがあります。 このような統合モデルが実現すれば、鉱業開発による経済効果と自然環境の維持が両立し、現地コミュニティにも炭素収入や雇用という形で利益が及ぶ可能性があります。 ただし、鉱山周辺の生態系リスク管理や、クレジットの「追加性(本来放置すれば失われた森林を守ったか)」の証明など課題も多いため、まだ実証段階といえます。それでも「開発と保全の両立」というインパクトから、このHPAL+ブルーカーボンのモデルは政府関係者や業界で注目を集めています。 このように、インドネシアでは国の制度整備、地方政府の主体的取組み、民間企業の協業プロジェクトが相まって、ブルー・カーボン市場が徐々に形作られています。 まだ市場としては始まったばかりですが、その将来性に国内外の多くのステークホルダーが期待を寄せている状況です。

4.日本企業の現状と今後

必要性は理解しているが、手はまだ届いていない

日本企業全体で見ると、ブルーカーボンへの関与はまだ“点”の取り組みにとどまっています。総合商社や大手インフラ企業が個別にパイロット投資や長期購入契約を結び始めた段階で、プロジェクト件数・投入資本ともに森林系オフセットや再エネ投資に比べれば桁が一つ小さいのが実情です。 背景には三つの制約が存在します。第一に、日本企業がこれまで培ってきたカーボンオフセットのノウハウは植林・森林保全が中心で、潮汐や地下有機炭素を対象にしたブルーカーボン系 MRV(測定・報告・検証)技術が十分に社内蓄積されていないこと。第二に、ブルーカーボンは国際認証スキームの歴史が浅く、法務・会計処理の標準化が遅れているため、上場企業のガバナンス部門が大型投資を決裁するハードルが高いこと。第三に、インドネシア政府がクレジットの海外輸出に慎重姿勢を保ってきたため、クレジット換金の出口が不透明だったことです。その結果、国内 GX-ETS や EU CBAM に向けて高品質クレジットを確保したいというニーズは強いにもかかわらず、「初期リスクが読めない」という理由で二の足を踏む企業が少なくありません。 ただし流れは確実に変わりつつあります。2024年末にインドネシア政府がブルーカーボンを含む自然由来クレジットの輸出指針を公表し、複数の国際認証機関と相互承認の覚書を締結しました。日本の気候関連金融を担うメガバンクや政府系金融機関も、ブルーカーボン案件を対象に融資枠や保証スキームを整え始めており、資金面のボトルネックも緩和されつつあります。日本企業は必要性を強く認識しながらも制度・技術・資金の不確実性ゆえに様子見をしてきましたが、ようやく参入の前提条件が整い始めた、というのが現状です。

なぜ「今」なのか

ブルーカーボン投資のタイミングとして「今」を推す理由は、単なるトレンド追随ではなく、規制・市場・技術の三層が同時に臨界点を迎えているからです。 第一に規制の臨界点。2023年に試行が始まった GX-ETS は2026年の本格運用に向けて排出枠の削減率を段階的に引き上げることを計画しています。対象企業は国内排出量の半数近くに達しており、これを自助努力だけで賄うのは現実的ではありません。さらに2026年以降、EU CBAMは輸入品の炭素コスト全額支払いフェーズに入ります。グローバルサプライチェーンを抱える日本の製造業が競争力を維持するには、質の高いオフセットを確保する外部的選択肢が不可欠になりました。 第二に市場の臨界点。ブルーカーボン由来クレジットは森林系の約3倍で取引される一方、供給量は全プロジェクトの1%に満たないため、早期に権益を確保した企業が長期の値上がり益を手にできます。加えて、国際金融機関や多国籍企業が「ネイチャー・ポジティブ宣言」を相次いで行い、高品質クレジットを前払いで確保する動きが活発化しているため、今後は買い手主導の競争が激化することが必至です。 第三に技術の臨界点。ドローン・LiDAR 測量、衛星データ解析、AI 樹冠認識といったリモートセンシング技術が急速に普及し、従来は年数億円規模だった MRV コストが十分の一以下に低下し始めています。ブルーカーボンの測定が「特殊で高額」な領域から「実用的なコストで回るビジネス」へと移行しつつある今、プロジェクト初期投資に占める MRV 比率が急速に下がり、IRR を押し上げる効果が見込めます。

5.まとめ

ブルー・カーボンは、気候変動対策としての即効性と沿岸コミュニティへの便益を兼ね備えた稀有なソリューションです。 インドネシアでは取引所の開設をはじめとする制度整備が進み、中央政府・地方政府・民間企業が連携する形で市場の基盤が急速に整いつつあります。 マングローブ林や海草藻場の再生は、炭素クレジットという経済的価値を生み出すだけでなく、防災と生計向上を同時に実現できる点で国際的にも高い評価を受けています。 一方、プロジェクトの追加性や MRV コスト、輸出規制といった課題も依然として残り、事業化には段階的なリスクマネジメントが不可欠です。 日本企業にとっては、GX-ETS などへの対応という国内外の規制圧力が高まる中で、高品質クレジットを長期的に確保できるかどうかが競争力を左右します。 ブルー・カーボン市場はまだ黎明期にありますが、国際ルールや技術コストの変化によって短期間でプレーヤー間の優劣が決まる可能性があります。 リデルタは日本企業が東南アジアの成長を取り込み、アジアでのプレゼンスを高めるべく挑戦する日本企業のために進出支援コンサルティングおよび東南アジアM&Aサービスを提供しています。 リデルタは現在220名を超えるローカルエージェントを抱えているため現地のビジネス慣習やマーケットを深く理解しており、また多くの現地販路ネットワークをもつパートナーも紹介可能です。 リデルタでは東南アジア諸国の案件をご紹介可能ですので「東南アジアへの進出」「東南アジアM&A」をご検討の企業のご担当社様は気軽に無料相談にてご連絡ください。 リデルタが日本の産業を東南アジアで拓くための一助となれることを心より楽しみにしております。

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