「送り出す前に育てる」時代へ──トヨタ・ヤマト運輸が示す人材育成パッケージの新潮流
- 「人は足りているのに、合わない」現場の悲鳴
- トヨタのTMP Tech──“日本で通用する整備士”を現地で育てる
- オートバックス×フィリピンUPH──現地大学との共同講座で“広く業界に”
- SBS×WEWORLD──“第三者が乗り入れる”新しいモデル
- ヤマトホールディングスの動き──ベトナムの大学と連携協議中
- 第三者が主導する大学講座──“企業主導モデル”の受け皿として拡大中
- 「有象無象を受け入れない」新しい採用パッケージとは
- 今後の展望──“教育から雇用まで一気通貫”が常識になる
- 次の人材戦略は“教育機能を持つこと”
「人は足りているのに、合わない」現場の悲鳴
1993年に技能実習制度が導入されてから30年以上が経過しましたが、日本企業の多くが抱える課題は「人がいない」から「来ても定着しない」へと変わりつつあります。 現場では、日本語力・技術レベル・職業観の違いから生じるミスマッチが相次いでおり、採用と離職のループが止まりません。実習生本人にとっても「思っていた仕事と違った」「生活面で孤立した」といった不満が生じ、双方にとって不幸な結果となるケースが少なくないのです。 要因の一つとして挙げられるのが、送り出し元や仲介業者の"質のばらつき"です。現地での教育や選抜が十分でないまま日本に送り出されるケースもあり、企業側が求める人物像と現地育成の内容が乖離しています。 この構造を抜本的に変えようとしているのが、「企業が自ら教育に踏み込み、大学や専門学校と連携して現地で育成する」という新しい動きです。トヨタ、オートバックス、ヤマトホールディングス、SBSホールディングスといった大手企業が次々に参入しています。
トヨタのTMP Tech──“日本で通用する整備士”を現地で育てる
トヨタは早くからフィリピンに「Toyota Motor Philippines School of Technology(TMP Tech)」を設立しました。ここでは日本語やマナー教育に加え、日本国内ディーラーで即戦力として働ける整備技術を学びます。 卒業生は、トヨタおよび日野自動車のディーラーに正式採用され、日本で就労しています。日本語教育、資格取得支援、生活指導までをカリキュラムに含め、"送り出す前に育てる"仕組みを構築しているのが特徴です。 企業自らが現地に学校を持ち、採用までを統合する「教育主導型スキーム」として、業界の先駆けとなりました。
オートバックス×フィリピンUPH──現地大学との共同講座で“広く業界に”
自動車アフターマーケット大手のオートバックスセブンも、2023年にフィリピンのUniversity of Perpetual Help(UPH)と連携協定を締結しました。 同社の子会社チェングロウスが現地で自動車整備コースを新設し、日本語・特定技能試験対策・マナー教育をセットで実施しています。 特徴的なのは、オートバックスグループへの採用にとどまらず、他の自動車関連企業にも卒業生を紹介していく方針を明示している点です。企業が自ら教育枠を設けながらも、「業界全体で人材を育てる」という発想への転換を示しています。
SBS×WEWORLD──“第三者が乗り入れる”新しいモデル
物流業界では、SBSホールディングスと人材会社WEWORLDによる提携が注目を集めました。 SBSグループの教育拠点であるSBS自動車学校に対し、WEWORLDが特定技能人材を紹介し、育成・訓練を経て受け入れ企業に斡旋するという業務提携を2025年に公式発表しました。 これはまさに「企業側の学校」×「第三者の人材会社」×「受け入れ企業」という三位一体構造の実装例です。"企業直営教育機関への外部乗り入れ"を公にした初のケースであり、モデルが成功すれば、物流に限らず製造・介護・外食といった他分野にも横展開される可能性が高いと言えます。
ヤマトホールディングスの動き──ベトナムの大学と連携協議中
宅配最大手のヤマトホールディングスも、ベトナムのハノイ工業大学(HaUI)と「日本市場向けドライバー育成」について協議を開始しています。 大学公式サイトでは、ヤマトホールディングスの会長の訪問と意見交換の様子が報じられており、今後、現地での講座設置から日本での物流人材受け入れという道筋を構築する狙いがあるとみられます。 現時点では正式なMOUや第三者仲介の実績は公開されていませんが、物流ドライバー不足が深刻化する中で、トヨタやオートバックスが築いた教育連携モデルを物流分野にも拡張しようとする意図が見て取れます。
第三者が主導する大学講座──“企業主導モデル”の受け皿として拡大中
一方で、人材会社自らが大学講座を運営し、修了生を日本企業へつなぐ動きも加速しています。
- パーソルエクセルHRパートナーズ:ハノイ工科大学に日本語寄附講座を開設し、日系企業への就職機会を提供しています。
- アイデムグローバル:同大学で年間500時間×2年の協同教育プログラムを実施し、採用実績を累計で公表しています。
これらは「企業主導」ではなく「第三者主導」ですが、大学での教育から日本企業就職という流れは同じです。将来的には企業×大学の枠組みに第三者が乗り入れる"ハイブリッド型"へ進化する可能性が高いと考えられます。
「有象無象を受け入れない」新しい採用パッケージとは
これらの事例に共通する発想は、単なる外国人受け入れではなく、「現地で教育された人材をパッケージとして迎える」という設計です。 企業側は採用前に候補者の日本語力・技能・適性を把握でき、現地側も「就職保証付き教育プログラム」として学生を募集できます。いわば「採用の前に育成を終わらせる」モデルであり、ミスマッチを根本的に減らす効果があります。 現地での授業内容、試験結果、勤怠態度などのデータを日本側に共有することで、採用後の定着率向上にもつながります。 さらに、教育機関と企業をつなぐ第三者(人材会社)が品質保証とマッチング最適化を担うことで、企業は採用の安定化、学生はキャリアの明確化という双方の利益を得られるのです。
今後の展望──“教育から雇用まで一気通貫”が常識になる
今後、特定技能や技能実習の枠組みが統合・再編される中で、「現地教育+日本就職パッケージ」はトレンドになると見られています。 AOTSの寄附講座制度では、すでに企業だけでなく人材紹介会社も申請可能と明記されており、産学連携に第三者が参画する法的・制度的な土台が整いつつあります。 この仕組みを活かせば、企業×大学の講座を"共有プラットフォーム"として複数の企業が利用できるようになるでしょう。 トヨタの整備士学校、オートバックスの大学講座、ヤマトの協議、SBSとWEWORLDの業務提携──それぞれアプローチは異なりますが、向かう方向は一つで、「送り出しから採用までを一気通貫で設計する」という発想にほかなりません。
次の人材戦略は“教育機能を持つこと”
従来の「募集→面接→採用」型ではなく、「教育→選抜→採用→定着」を一気に設計する時代が到来しています。 企業が"現地でクラスを持つ"ことは、単なる人手確保ではなく、文化と品質を輸出する戦略でもあります。 有象無象の送り出しを待つのではなく、現地で確かな教育を施し、共通の価値観を共有した人材を迎える──その仕組みをどう作るかが、これからの外国人材戦略の成否を決めると言えるでしょう。
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