英国・欧州のDMC・ベッドバンク市場──HBX Group上場後の業界地図と、日本の旅行会社が買うべき機能

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世界最大級のベッドバンクHotelbedsを傘下に持つHBX Groupが2025年2月にスペインで上場し、欧州発の旅行卸が公開市場で評価される時代に入りました。英国はABTA・ATOLという独自の消費者保護制度の下で、DMC(現地手配会社)、ツアーオペレーター、オンライン旅行会社が細分化された市場です。欧州の流通構造、英国の制度、日本企業がDMCやベッドバンクを取得する際の論点を整理します。

この記事の要点

HBX Group(Hotelbeds・Bedsonline)は2025年2月13日に上場し、7億4,800万ユーロを調達。2025年度は売上7億2,000万ユーロ、流通総額は前年比8%増。

欧州のホテル卸はHBXとWebBeds(Web Travel Group)の2強に集約が進み、中堅卸は特定地域・特定顧客への深さで生き残っている。

英国では旅行会社の多くがABTA会員・ATOL保有者で、パッケージ旅行規則2018に基づく消費者保護(倒産時の返金・帰国保証)が事業の前提になる。

日本人の出国者は2025年に1,473万人(前年比13.3%増)とコロナ前の7割まで回復し、欧州向けの地上手配(DMC)需要が戻っている。

日本企業の取得対象は、日本人向け地上手配を担うDMC、欧州発の訪日送客を持つ旅行会社、欧州ホテル在庫への接続を持つ中堅卸の3類型である。

本記事は2026年10月時点の公開情報に基づきます。

目次

  1. 欧州の旅行流通地図──2強ベッドバンクと細分化された現地手配

  2. 英国の制度──ABTA・ATOLとパッケージ旅行規則

  3. 日本企業が欧州で買う3つの機能

  4. 検討にあたっての論点

欧州は世界のホテル卸とDMCの本拠地であり、日本の旅行会社にとっては日本人向けの地上手配と訪日送客の両方で関わりの深い市場です。本記事では流通の構造と英国の制度を分解し、日本企業が欧州の旅行会社と資本提携する際に見るべき点をまとめます。

欧州の旅行流通地図──2強ベッドバンクと細分化された現地手配

欧州は世界の旅行流通の主要プレイヤーを多く生んだ地域です。OTAのBooking.com(オランダ)、eDreams ODIGEO(スペイン)、総合旅行会社のTUI(ドイツ)、そしてベッドバンクのHotelbeds(スペイン)です。「Agoda騒動が教える現代ホテル流通の真実」で整理した6つのプレイヤーのうち、ベッドバンクとDMCの両方で欧州企業が世界の中心にいます。

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図1:欧州の旅行流通の構造。小売(OTA・ツアーオペレーター・代理店)と供給(宿泊・交通・体験)の間に、ベッドバンクとDMCという卸・手配の層がある

レイヤー

代表企業(本拠)

事業の特徴

日本企業から見た位置づけ

ベッドバンク(B2B卸)

HBX Group/Hotelbeds(スペイン)、WebBeds(Web Travel Group、英国・ドバイ拠点)

世界のホテル在庫を仕入れ、旅行会社・OTAに卸す。上場大手2社に集約

欧州ホテル在庫への接続先。買収対象は非上場の地域特化卸

ツアーオペレーター

TUI、Jet2holidays、On the Beach、Hays Travel(英国)

航空+宿泊のパッケージ造成。英国は垂直統合型が強い

英国発の訪日パッケージを造成できる相手。規模が大きく出資は難しい

DMC(現地手配)

英国・仏・伊・スペイン各国の中小DMC、日系大手旅行会社の欧州法人

送迎・ガイド・観光・MICEの地上手配を受託

日本人向けの地上手配機能。売上数億〜数十億円の非上場が中心

旅行代理店(対面・ホームワーカー)

Travel Counsellors、Hays Travel、独立系約4,000社(ABTA会員)

個人・富裕層・法人の手配。英国はホームワーカー型が普及

訪日の実需を持つ。小規模で属人的

ベッドバンクの代表であるHBX Groupは2001年にマヨルカ島で創業し、2016年にCinvenとCPP Investmentsが約12億ユーロでTUIから取得、2017年にTouricoとGTAを買収して世界最大級の卸になりました。2025年2月13日にスペイン4市場で上場し、7億4,800万ユーロを調達しています。2024年の売上は6億9,300万ユーロで宿泊事業が88%を占め、2025年度(2024年10月〜2025年9月)は売上7億2,000万ユーロ、流通総額は前年比8%増でした。調整後EBITDA率は60%近い一方、上場関連費用等で7,000万ユーロの純損失を計上しています。

上場大手の下には、特定地域(イベリア半島、地中海リゾート、英国国内)や特定顧客(巡礼、スポーツ観戦、クルーズ寄港地)に特化した中堅卸が存在します。これらは上場大手に在庫を供給する側でもあり、仕入れ契約の深さが企業価値を決めます。

英国の制度──ABTA・ATOLとパッケージ旅行規則

英国で旅行会社を取得する場合、最初に確認するのが消費者保護の枠組みです。航空券を含むパッケージを販売する事業者は、民間航空局(CAA)のATOL(Air Travel Organiser's Licence)を保有する必要があり、事業者が倒産した場合の返金と帰国を保証する基金(Air Travel Trust)に1予約あたり拠出金を支払います。航空券を含まないパッケージは、パッケージ旅行規則(Package Travel and Linked Travel Arrangements Regulations 2018)に基づき、保証保険・信託口座・ボンドのいずれかで顧客資金を保全する義務があります。

業界団体ABTAは約4,000社の会員を持ち、ABTAの行動規範と苦情処理手続が事実上の業界標準です。ABTA会員であることが代理店・消費者からの信頼の前提になるため、買収後も会員資格を維持する体制(財務要件・監査)が必要になります。

制度

監督

対象

買収時の確認点

ATOL

民間航空局(CAA)

航空券を含むパッケージ・フライト販売

ライセンス区分(Standard/Small Business)、拠出金の納付、年次財務報告

パッケージ旅行規則2018

事業・通商省(DBT)

航空以外のパッケージ、リンクト・トラベル

顧客資金の保全方法(信託・保険・ボンド)、約款の整備

ABTA会員資格

ABTA(業界団体)

旅行代理店・ツアーオペレーター

財務要件の充足、ボンドの差し入れ、苦情履歴

消費者法・GDPR

CMA、ICO

価格表示、顧客データ

表示価格の総額表示、顧客データの域外移転(日本への共有)

EU離脱後、英国の規則はEUパッケージ旅行指令と分かれて運用されています。英国と大陸欧州の両方で販売する企業は、二重の保護制度に対応しているかを確認する必要があります。

日本企業が欧州で買う3つの機能

日本の旅行会社が欧州に関心を持つ背景には、アウトバウンドの回復があります。出国日本人数は2025年に1,473万1,500人(前年比13.3%増)とコロナ前の7割を超えました。欧州向けは団体・パッケージの比率が高く、現地の地上手配(DMC)の品質と仕入れ力が商品力を左右します。同時に、欧州から日本への旅行者は高単価・長期滞在型で、訪日消費額の上位を占める市場です。

取得する機能

候補企業の像

期待できる効果

主な論点

日本人向け地上手配(DMC)

ロンドン・パリ・ローマ等に拠点を持つ日系・現地系DMC

仕入れの内製化、品質管理、MICE受注

日本の大手旅行会社への依存度、ガイド・ドライバーの確保、為替

欧州発の訪日送客

日本・アジア専門のツアーオペレーター、富裕層向け旅行会社

高単価の訪日客の獲得、自社在庫(宿泊・体験)の販売

ATOL・ABTA維持、送客の季節性、日本側の受入体制

欧州ホテル在庫への接続(卸)

地域特化の中堅ベッドバンク、ホテル直接契約を持つ卸

欧州在庫の仕入れ原価の低減、自社OTAへの供給

上場大手との競合、技術接続の費用、与信販売の運転資金

英国のDMC・旅行会社はオーナー経営の中小企業が多く、創業者の引退に伴う事業承継が売却動機になるケースが目立ちます。日本企業との取引では、過半数取得を前提に、創業者が2〜3年残留して顧客と仕入れ先を引き継ぐ形が現実的です。

検討にあたっての論点

  • 対象企業の顧客構成は、日本の旅行会社向け(受託)か、欧州の消費者・代理店向け(自社販売)か。前者は特定顧客への依存、後者は消費者保護制度への対応が論点になる。

  • 仕入れは自社契約か、上場大手ベッドバンクからの再販か。再販比率が高い卸は価格決定力がなく、買収後に大手が条件を変えると収益が崩れる。

  • ATOL・ABTAの財務要件を、買収後の資本構成でも満たせるか。親会社保証が求められる場合がある。

  • 顧客からの前受金と信託口座の残高が一致しているか。旅行業は前受金で運転資金を回すため、資金繰りの実態が見えにくい。

  • 従業員の国籍・就労資格(EU市民の滞在資格)と、買収後の人員移転の可否。

本記事の数値・制度は2026年10月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。

日本企業への示唆

欧州の旅行流通は、上場2社のベッドバンクと細分化された現地手配会社という構造にあります。日本企業が取り込める価値は、巨大な卸との競争ではなく、日本人向けと訪日向けの両方向で「地上の手配」と「顧客との接点」を持つことにあります。

  • ベッドバンク機能は上場大手への接続で代替できるため、取得対象は在庫そのものより、特定顧客層(富裕層・MICE・日本専門)への販売力を持つ企業に絞る。

  • 英国は消費者保護制度が厳格で、ATOL・ABTAの維持が事業継続の条件になる。買収ストラクチャーの検討段階で財務要件を織り込む。

  • 事業承継型の案件が多く、価格より経営陣の残留と顧客引き継ぎの設計が成否を分ける。