
この記事の要点
- 1外国人材のミスマッチの一因は送り出し元の質のばらつきにあり、大手は現地教育に自ら踏み込み始めた。
- 2トヨタはフィリピンにTMP Techを設立し、日本語・整備技術・生活指導を統合した教育主導型の先駆けとなった。
- 3オートバックスはUPHとの共同講座で卒業生を自社以外にも紹介し、業界全体で人材を育てる発想へ転換した。
- 4SBSとWEWORLDの提携は企業直営の教育機関に第三者の人材会社が乗り入れる初の公表例。
- 5AOTSの寄附講座制度は人材紹介会社の申請も認めており、企業・大学・第三者のハイブリッド型に制度的土台がある。
本記事は2025年10月時点の情報に基づきます。
1993年に技能実習制度が導入されてから30年以上が経過し、日本企業の多くが抱える課題は「人がいない」から「来ても定着しない」へと変わりつつあります。この構造を変えようとしているのが、企業が自ら教育に踏み込み、現地の大学や専門学校と連携して育成する新しい動きです。本記事では大手企業の事例を通じてこのモデルの構造を整理し、日本企業が同様の仕組みを設計する際の確認点をまとめます。
「人は足りているのに、合わない」現場の課題
現場では、日本語力・技術レベル・職業観の違いから生じるミスマッチが相次ぎ、採用と離職のループが止まりません。実習生本人にとっても「思っていた仕事と違った」「生活面で孤立した」といった不満が生じ、双方にとって不幸な結果となるケースが少なくありません。
要因の一つとして挙げられるのが、送り出し元や仲介業者の質のばらつきです。現地での教育や選抜が十分でないまま日本に送り出されるケースもあり、企業側が求める人物像と現地育成の内容が乖離しています。
この構造を抜本的に変えようとしているのが、「企業が自ら教育に踏み込み、大学や専門学校と連携して現地で育成する」動きです。トヨタ、オートバックス、ヤマトホールディングス、SBSホールディングスといった大手企業が次々に参入しています。
トヨタのTMP Tech:日本で通用する整備士を現地で育てる
トヨタは早くからフィリピンに「Toyota Motor Philippines School of Technology(TMP Tech)」を設立しました。ここでは日本語やマナー教育に加え、日本国内のディーラーで即戦力として働ける整備技術を学びます。
卒業生は、トヨタおよび日野自動車のディーラーに正式採用され、日本で就労しています。日本語教育、資格取得支援、生活指導までをカリキュラムに含め、渡航前に育成を完了させる仕組みを構築しているのが特徴です。企業自らが現地に学校を持ち、採用までを統合する「教育主導型スキーム」として、業界の先駆けとなりました。
オートバックスとフィリピンUPH:現地大学との共同講座で業界全体へ
自動車アフターマーケット大手のオートバックスセブンは、2023年にフィリピンのUniversity of Perpetual Help(UPH)と連携協定を締結しました。同社の子会社チェングロウスが現地で自動車整備コースを新設し、日本語・特定技能試験対策・マナー教育をセットで実施しています。
特徴的なのは、オートバックスグループへの採用にとどまらず、他の自動車関連企業にも卒業生を紹介していく方針を明示している点です。企業が自ら教育枠を設けながらも、「業界全体で人材を育てる」という発想への転換を示しています。
SBSとWEWORLD:第三者が乗り入れる新しいモデル

物流業界では、SBSホールディングスと人材会社WEWORLDによる提携が注目を集めました。SBSグループの教育拠点であるSBS自動車学校に対し、WEWORLDが特定技能人材を紹介し、育成・訓練を経て受け入れ企業に斡旋するという業務提携を2025年に公式発表しました。
これは「企業側の学校」「第三者の人材会社」「受け入れ企業」という三位一体構造の実装例です。企業直営の教育機関への外部乗り入れを公にした初のケースであり、モデルが成功すれば、物流に限らず製造・介護・外食といった他分野にも横展開される可能性があります。
ヤマトホールディングス:ベトナムの大学と連携協議中
宅配最大手のヤマトホールディングスも、ベトナムのハノイ工業大学(HaUI)と「日本市場向けドライバー育成」について協議を開始しています。大学の公式サイトでは、ヤマトホールディングスの会長の訪問と意見交換の様子が報じられており、現地での講座設置から日本での物流人材受け入れという道筋を構築する狙いがあるとみられます。
現時点では正式なMOUや第三者仲介の実績は公開されていません。しかし、物流ドライバー不足が深刻化する中で、トヨタやオートバックスが築いた教育連携モデルを物流分野にも拡張しようとする意図が見て取れます。
第三者が主導する大学講座:企業主導モデルの受け皿として拡大

一方で、人材会社自らが大学講座を運営し、修了生を日本企業へつなぐ動きも加速しています。
- パーソルエクセルHRパートナーズ:ハノイ工科大学に日本語寄附講座を開設し、日系企業への就職機会を提供しています。
- アイデムグローバル:同大学で年間500時間×2年の協同教育プログラムを実施し、採用実績を累計で公表しています。
これらは「企業主導」ではなく「第三者主導」ですが、大学での教育から日本企業就職という流れは同じです。将来的には企業と大学の枠組みに第三者が乗り入れる「ハイブリッド型」へ進化する可能性が高いと考えられます。
現地で育成した人材をパッケージとして迎える

これらの事例に共通する発想は、単なる外国人受け入れではなく、「現地で教育された人材をパッケージとして迎える」という設計です。企業側は採用前に候補者の日本語力・技能・適性を把握でき、現地側も「就職保証付き教育プログラム」として学生を募集できます。いわば「採用の前に育成を終わらせる」モデルであり、ミスマッチを根本的に減らす効果があります。
現地での授業内容、試験結果、勤怠態度などのデータを日本側に共有することで、採用後の定着率向上にもつながります。さらに、教育機関と企業をつなぐ第三者(人材会社)が品質保証とマッチングの最適化を担うことで、企業は採用の安定化、学生はキャリアの明確化という双方の利益を得られます。
| モデル | 事例 | 教育の主体 | 採用先 |
|---|---|---|---|
| 企業直営の学校 | トヨタ TMP Tech | 企業 | 自社グループのディーラー |
| 企業と大学の共同講座 | オートバックス×UPH | 企業子会社と大学 | 自社グループおよび業界他社 |
| 企業の学校に第三者が乗り入れ | SBS×WEWORLD | 企業の学校、人材会社が紹介 | 受け入れ企業(グループ外を含む) |
| 第三者主導の大学講座 | パーソル、アイデム×ハノイ工科大学 | 人材会社と大学 | 日系企業 |
今後の展望:教育から雇用まで一気通貫が常識になる

今後、特定技能や技能実習の枠組みが統合・再編される中で、「現地教育+日本就職パッケージ」はトレンドになると見られています。AOTSの寄附講座制度では、すでに企業だけでなく人材紹介会社も申請可能と明記されており、産学連携に第三者が参画する制度的な土台が整いつつあります。
この仕組みを活かせば、企業と大学の講座を「共有プラットフォーム」として複数の企業が利用できるようになります。トヨタの整備士学校、オートバックスの大学講座、ヤマトの協議、SBSとWEWORLDの業務提携は、それぞれアプローチは異なりますが、「送り出しから採用までを一気通貫で設計する」という一つの方向に向かっています。
日本企業が設計時に確認すべきこと

従来の「募集→面接→採用」型ではなく、「教育→選抜→採用→定着」を一気に設計する時代が到来しています。企業が現地でクラスを持つことは、単なる人手確保ではなく、文化と品質を輸出する戦略でもあります。一方で、教育に踏み込むほど投資と運営の負担は増えます。設計にあたっては次の点を確認しておく必要があります。
- 教育と配置の分離:多くの送り出し国では教育機関と送り出し機関が制度上分けられています。自社が関与する教育機関が配置業務を担えない場合、送り出し機関との契約を別途設計する必要があります。
- 運営主体の選択:自社直営、大学との共同講座、第三者の乗り入れのどれを選ぶかで、投資額、品質統制の強さ、立ち上げ速度が異なります。
- 修了生の受け皿:自社だけで採用するか業界他社にも紹介するかで、教育コストの回収方法と現地での募集訴求力が変わります。
- 既存機関の活用:現地の訓練校や人材会社への出資・買収は立ち上げを速めますが、教育内容、修了生の実績、ライセンスの状況を検証したうえで判断する必要があります。
不特定多数の送り出しを待つのではなく、現地で確かな教育を施し、共通の価値観を共有した人材を迎える仕組みをどう作るかが、これからの外国人材戦略の成否を決めます。
検討にあたっての論点
- 自社の定着率低下の原因は、日本語・技能・職業観のどこにあるか。現地教育で解決できる要因か。
- 現地に自社の教育枠を持つ場合、単独で運営するか、大学・学校と連携するか、第三者の人材会社を介在させるか。
- 育成した人材を自社だけで採用するか、業界他社にも紹介して教育コストを分担するか。
- 現地教育機関との連携において、教育と配置(送り出し)を制度上どう分けるか。契約主体は誰か。
- 既存の訓練校や人材会社への出資・買収と、自社での新設のどちらが、時間と品質の面で合理的か。
本記事の数値・制度は2025年10月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。
日本企業への示唆
「現地で育ててから採用する」モデルは、外国人材の定着率を改善するだけでなく、教育機能そのものを事業資産に変える動きです。日本企業にとっては、自社の採用課題の解決策であると同時に、現地の教育機関や人材会社との提携・出資という投資テーマにもなります。
- 自社単独の学校設立は品質を統制しやすいが投資が重く、大学との共同講座や第三者の乗り入れで負担を分散できる。
- 教育と送り出しは各国で制度上分離されるため、教育への関与と配置の契約を分けて設計する必要がある。
- 既存の訓練校・人材会社への出資や買収は立ち上げ時間を短縮できるが、教育内容と修了生の実績を検証してから判断する。
検討前に確認したいこと
- 1自社の定着率低下の原因は、日本語・技能・職業観のどこにあるか。現地教育で解決できる要因か。
- 2現地に自社の教育枠を持つ場合、単独で運営するか、大学・学校と連携するか、第三者の人材会社を介在させるか。
- 3育成した人材を自社だけで採用するか、業界他社にも紹介して教育コストを分担するか。
- 4現地教育機関との連携において、教育と配置(送り出し)を制度上どう分けるか。契約主体は誰か。
- 5既存の訓練校や人材会社への出資・買収と、自社での新設のどちらが、時間と品質の面で合理的か。
執筆
ReDelta Insights編集部
ReDelta Insights Editorial
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