インドネシアM&A:オンラインゲーム市場の可能性

インドネシアのゲーム産業は2020年にGDPの2.19%を占め、スマホゲーム利用者は1.3億人に達しています。本記事では、eスポーツの成長、国内産業育成を狙う2024年大統領規則第19号、買収時に注意すべき外資規制とコンテンツ規制、他業種とのシナジーを整理し、日本企業の参入余地を考えます。

ReDelta Insights編集部公開 更新
インドネシアM&A:オンラインゲーム市場の可能性

この記事の要点

  • 12020年のゲーム産業は24.88兆ルピア(GDPの2.19%)、スマホゲーム利用者1.3億人、PCゲーム利用者5,340万人
  • 2国内開発者の市場シェアは0.4%にとどまり、政府は2024年大統領規則第19号で国内産業の育成と外資誘致を打ち出した
  • 3ゲーム産業はプライオリティリストに含まれ、100%外資が認められる場合があるが、コンテンツ規制と賭博禁止に注意が必要
  • 4教育、ヘルスケア、観光、金融、小売など異業種とのシナジーが見込め、ゲーム企業以外の買い手にも機会がある

本記事は2024年7月時点の情報に基づきます。

インドネシアではゲーム市場が新たな成長産業として注目されています。利用者規模が大きい一方で国内開発者のシェアは小さく、政府は国内産業の育成と外資の誘致を同時に進めようとしています。本記事では、市場規模、eスポーツの成長、2024年の大統領規則、買収時に注意すべき規制、他業種とのシナジーを整理し、日本企業がこの市場にどう関われるかを考えます。

ゲーム市場の規模

2020年にはインドネシアのゲーム産業が国内総生産(GDP)に対して24.88兆ルピア(全体の2.19%)を占めています [1]。スマホゲームとPCゲームが主流で、国内のスマホゲーム利用者は1.3億人、PCゲーム利用者は5,340万人に達しています。Google Playからのオンラインゲームのダウンロード数は、インドネシアが世界第3位です。

指標 数値(2020年前後)
ゲーム産業の規模 24.88兆ルピア(GDPの2.19%)
スマホゲーム利用者 1.3億人
PCゲーム利用者 5,340万人
Google Playのゲームダウンロード数 世界第3位

利用者の規模は、ゲーム企業の買収だけでなく、ゲームを顧客接点として使う異業種の企業にとっても意味を持ちます。

eスポーツの成長

eスポーツは、インドネシアのゲーム産業において重要なセグメントです。市場は2023年時点で推定1.1億ドルの価値があり、収益は数年間安定して成長しているとされます。2024年から2030年までの年平均成長率(CAGR)は5.87%で、2030年までに総収益が約16.5億ドルに達するという予測も公開されています。2021年時点で東南アジア全体のeスポーツ人口は27.4億人に達するとされ、そのうち約43%をインドネシアが占めます(いずれも公開情報の表記による)。インドネシアのeスポーツ人口は今後も増加すると予想されています。

eスポーツ発展の背景には、政府の後押しがあります。政府は2014年に「Indonesia Esports Association(インドネシアeスポーツ協会、通称IESPA)」を設立し、eスポーツ分野の活動を国として支援しています。IESPAは国内の大規模なeスポーツチームを取りまとめ、国際大会への出場を管理・サポートしています。国内リーグの設立や国際大会への参加が増えており、プロフェッショナルな環境が整備されつつあります。

政府の政策:2024年大統領規則第19号

インドネシア観光クリエイティブエコノミー省によると、ゲーム産業の主導権が依然として外国企業にあることが課題とされています [1]。現地のゲーム開発者が占める割合は極めて少なく、国内企業の参入率はわずか0.4%にすぎません。

この状況を改善するため、2024年2月12日にジョコ・ウィドド大統領が署名した「2024年大統領規則第19号(PR 19/2024)」が施行されました。「国内ゲーム産業の発展加速に関する大統領令」とされ、ゲーム産業がインドネシアの経済、文化、社会に与える戦略的重要性を認識し、国内開発者の市場シェアを増やし、外国からの収益に依存する状況を改善して、国内産業の成長と革新を促進することを目指しています。

主なポイントは次の通りです。

  • 市場シェアの増加:外国企業によるインドネシア市場への投資を奨励し、競争力強化を目指す。
  • 政府支援の強化:税制上の優遇措置や教育プログラムの整備など、多様な支援措置を講じることを明記。
  • 外国企業へのオープンネス:外国企業がインドネシアで事業展開しやすくする方針を示し、ゲーム産業への参入を促進する措置が期待される。
  • その他の関連規定:インフラ整備、技術移転の推進、知的財産権の保護強化、教育制度の改善など、産業全体を支援する包括的な政策。

国内産業の育成が目的である以上、外国企業には「投資と技術・人材の育成に貢献する」形での参入が期待されていると読めます。買収後に現地開発者の育成や技術移転をどう位置づけるかは、当局との関係にも影響します。

M&Aで注意すべき規制

日本企業がインドネシアのゲーム企業を買収する場合、いくつかの規制と手続きに注意が必要です。2021年大統領規則第10号「ビジネス分野の投資リスト」(PR 10/2021)には、外国投資に対する制限や禁止事項が示されています。

禁止対象のコンテンツ

暴力的、猥褻、宗教や民族に対する冒涜、国家の統一や公共の秩序に反するコンテンツの制作や流通は禁止されています。ムスリム人口が多い文化的背景を考慮し、開発者やパブリッシャーは暴力的・過激なシーンやキャラクターの描写がないかに注意し、ローカライズする必要があります。未成年者への有害なコンテンツの提供も禁止されています。

さらに、インドネシアでは賭博は違法とされており、賭博要素を含むゲームの制作や提供は禁止されています。対象企業のタイトルにガチャやリワードの仕組みがある場合、賭博規制との関係を法務デューデリジェンスで確認する必要があります。

外資規制

インドネシアでは、特定の産業セクターについて外国投資の制限や禁止があります。ゲーム産業については、アプリ開発やプログラミングとあわせて外資誘致の傾向が見られ、政府が投資の優先産業を列挙した「プライオリティリスト」に含まれています。そのため、ゲーム産業では外国投資の制限が緩和され、100%外資が許可されることがあります。ただし、特定の条件や規制が適用される場合もあるため、対象企業の事業区分ごとに最新のリストで確認が必要です。

他業種とのシナジー

大手ゲーム企業がプラットフォーム強化や新たなビジネスモデルの構築のためにゲーム開発企業を買収する例もありますが、近年は異業種からの参入が増えています。ゲーム企業の技術とクリエイティブな力を他業種に応用することで、新しい事業機会を生み出すことができます。

業種 シナジーの例
教育 ゲーミフィケーション(教育用ゲーム、インタラクティブな学習アプリ)。ゲーム技術を活用したeラーニングプラットフォーム
ヘルスケア フィットネスや栄養管理を促す健康促進ゲーム。リラクゼーションやストレス管理などメンタルヘルス支援アプリ
観光 VR/ARを用いた観光地のバーチャルツアー。観光地をテーマにしたゲームによるプロモーション
エンターテインメント ゲームを基にした映画、テレビシリーズ、コミックなどのクロスメディア展開。eスポーツイベントやライブイベントの主催
金融 ゲームのUI/UXを取り入れたフィンテックアプリ。ゲーミフィケーションによる金融教育
小売 AR/VRショッピング体験、仮想店舗。ゲーム要素を取り入れたロイヤリティプログラム
自動車 運転シミュレーターの開発、新車の仮想体験。車載インフォテインメントへのゲーム要素の組み込み
広告 インゲーム広告によるブランドプロモーション。人気ゲームとのコラボレーションによる特別アイテムやイベント

日本企業にとっての含意は、ゲーム企業の買収を「ゲーム事業への参入」としてだけでなく、自社の本業の顧客接点や技術基盤を強化する手段として位置づけられる点です。投資テーマを本業と結びつけることで、買収後の統合の目的が明確になります。

日本企業が確認すべきこと

  • 対象企業のタイトルやコンテンツが、宗教・民族・暴力・賭博に関する規制に抵触していないか。
  • 対象企業の事業区分が、投資リストで100%外資を認められる範囲に入っているか。
  • 大統領規則第19号に基づく支援措置(税制優遇、教育プログラム)が対象企業に適用されるか。
  • 現地開発者の育成や技術移転を、買収後の計画にどう組み込むか。
  • 法改正が頻繁なため、各省庁の最新情報を継続的に確認する体制があるか。

検討にあたっての論点

  • 自社はゲーム事業そのものに参入するのか、本業とゲーム技術のシナジーを狙うのか。目的によって対象企業の選び方が変わる。
  • コンテンツ規制と賭博規制を踏まえ、対象企業のタイトルのどこまでをそのまま維持できるか。
  • 国内産業育成を掲げる政策の下で、外資として当局や現地開発者コミュニティとどう関係を築くか。
  • eスポーツ市場の成長予測は出典によって幅がある。自社の投資判断ではどの数値を前提にするか。

本記事の数値・制度は2024年7月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。

日本企業への示唆

インドネシアのゲーム市場は利用者規模が大きい一方で、国内開発者のシェアが小さく、政府は外資の投資と国内産業育成の両方を進めようとしています。日本企業にとっては、ゲーム企業そのものの買収に加え、自社の本業とゲーム技術を組み合わせる異業種型の参入も選択肢になります。

  • 規制の確認:コンテンツ規制と賭博禁止、外資規制の適用を、対象企業の事業区分ごとに確認する。
  • 政策の活用:大統領規則第19号の支援措置(税制優遇、教育プログラム)が対象企業に及ぶかを見る。
  • シナジーの設計:教育、ヘルスケア、小売、金融などの本業にゲーム技術を持ち込む形で投資テーマを組む。

検討前に確認したいこと

  • 1対象企業のタイトルやコンテンツが、宗教・民族・暴力・賭博に関する規制に抵触していないかを確認したか。
  • 2ゲーム産業への出資が100%外資で可能か、対象企業の事業区分ごとに最新の投資リストで確認したか。
  • 3自社の本業(教育、ヘルスケア、小売、金融など)とゲーム企業の技術のシナジーを、具体的な製品・サービスで描けているか。
  • 4大統領規則第19号に基づく税制優遇や支援措置が、対象企業に適用されるかを確認したか。

出典・注記

  1. [1] Game Developer(インドネシア観光クリエイティブエコノミー省) https://kemenparekraf.go.id/en/economy-creative/game-developer
  2. [2] Online Single Submission(原文では「インドネシア中央統計庁」と記載)(インドネシア政府) https://oss.go.id/
  3. [3] The State of the Game in Indonesia(インドネシア総合研究所) https://www.indonesiasoken.com/news/the-state-of-the-game-in-indonesia/
  4. [4] Industri Game di Indonesia(Zekadigital) https://zekadigital.com/industri-game-di-indonesia/

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