M&Aで切り拓くインドネシア市場:注目の産業4選

インドネシアでは、Eコマースの拡大、製造業の成長、所得水準の上昇、中小零細企業のデジタル化を背景に、物流、家電製造、エンターテインメント、IT・SaaSの4分野で長期的な成長が見込まれます。本記事では各分野の需要の背景と公開統計を整理し、日本企業がM&Aで参入する際の論点を示します。

ReDelta Insights編集部公開 更新
M&Aで切り拓くインドネシア市場:注目の産業4選

この記事の要点

  • 1物流市場はEコマースとC2C取引の拡大で年5〜8%の成長が続き、政府の港湾・道路・空港投資が後押ししている
  • 2家電を含むILMATE部門は2023年に前年比10.7%成長、非石油・ガス加工産業のGDPの25.48%を占める
  • 3動画視聴時間の増加率は2019〜2021年で140%と世界最高で、一方で娯楽施設のインフラは不足している
  • 46,400万超の中小零細企業がGDPの約60%を担い、会計・人事などのSaaS需要が拡大している

本記事は2024年8月時点の情報に基づきます。

東南アジア最大の経済国であるインドネシアには、投資に適したビジネスチャンスが豊富にあります。堅調に成長を続ける市場と高い生産年齢人口比率を特徴とし、日本企業にとって東南アジアM&Aの有力な対象国になっています。本記事では、堅調な収益と長期的な成長が期待される物流、家電製造、エンターテインメント、IT・SaaSの4分野について、需要の背景と公開統計を整理し、M&Aで参入する際の論点を示します。

インドネシア市場の構造変化

インドネシアの経済ポテンシャル、豊富な天然資源、急成長する中間層は、日本の大企業だけでなく、現地のスタートアップにとっても魅力的な市場を形成しています。中小企業、特にスタートアップの成長は国内経済の変化を示しており、シンガポールなど他の東南アジア諸国からも注目を集めています。

若年層が多く、9割以上の人がスマートフォンを持つスマホネイティブの社会であるため、インターネットの普及率が高く、テック領域における変革の余地はこれまで以上に大きくなっています。一方で、伝統的でテクノロジーが介在していないレガシーな市場も多く、政治の不安定さも相まって、デジタル化が進む市場とそうでない市場の格差が広がっています。この格差こそが、外部からの技術や運営ノウハウが価値を持つ領域です。

ロジスティクス

インドネシアの物流需要は、主に電子商取引の急成長に牽引されて急増しています。都市化とインターネット普及率の上昇の中で、利便性、多様性、競争力のある価格を求めてオンラインショッピングを利用する消費者が増えています。インドネシアは東南アジア最大の電子商取引市場の一つとされ、毎年数百万人の新規ユーザーがオンラインショッピングを利用し始めています。

この傾向は、迅速で効率的な配送への需要を満たす物流会社にとって大きな機会です。消費者行動のデータは、在庫、倉庫、ラストマイル配送を管理する物流AIソリューションの源泉にもなります。オンライン小売、マーケットプレイス、電子広告、価格比較、旅行、決済、物流、金融といった多様なセグメントで、電子商取引を活用する事業が拡大しています。

大手物流企業JNEの関係者は、電子商取引とクリエイティブ産業の成長が、配送プロセスを通じて物流会社に貢献の機会を開き、事業拡大に影響を与えたと述べています。SNSなどでの情報交換や販売機会の増加でC2C(個人間)取引が活発になり、一般消費者間で商品を直接配送する傾向も増えていることから、物流サービスの需要は高止まりしています。

インドネシア物流協会によると、物流市場のCAGRは5〜8%で推移しており、研究機関の調査に基づくインドネシア商工会議所の試算では約7.9%で成長し続けると予測されています [1]。

政府は物流のボトルネックを減らし、群島全体の接続性を向上させるため、道路、港湾、空港の開発に多額の投資を行ってきました。インフラの強化により商品の輸送がスムーズになるだけでなく、配送時間とコストも削減され、物流サービスが企業と消費者の双方にとって魅力的なものになります。M&Aの観点では、対象企業の拠点や路線が、政府のインフラ投資の恩恵を受ける地域と重なっているかが評価の軸になります。

家電製造

製造業は、依然としてインドネシアへの投資で魅力的な分野の一つです。2023年の国連統計局の報告書によると、インドネシアは製造業の生産に最も貢献する国の一つで、生産額は2,410億米ドルに達すると予想され、アジアで第5位、東南アジアでは最上位とされています [2]。

この高い製造生産性を支える要素の一つが、家庭用電子機器の製造部門です。金属、機械、輸送機器、家電製品産業(ILMATE)の成長は、2023年に前年比10.7%の二桁成長を果たし、約632兆5,100億ルピアに達すると予測されています。二桁成長は2022年以降続いており、国の経済成長率を上回っている点も注目されます。

中央統計局(BPS)のデータによると、ILMATE部門の国のGDPへの寄与は4.27%に達し、2023年全体の非石油・ガス加工産業のGDPにおいては25.48%を占めています [3]。ほぼ4分の1を担っている計算です。

指標 数値
製造業生産額(2023年予想) 2,410億米ドル(アジア5位、東南アジア最上位)
ILMATE部門の成長率(2023年) 前年比10.7%
ILMATE部門の規模(2023年予測) 約632兆5,100億ルピア
ILMATE部門のGDP寄与 4.27%
非石油・ガス加工産業GDPに占める割合(2023年) 25.48%
家庭用品の輸出額(2021年1〜9月) 18億ドル(前年同期比98%増)

この成長は二つの要因によって推進されていると推定できます。一つ目は、国内消費者の家電需要の増加です。購買力の向上が家電需要を押し上げ、メーカーは国内需要を満たすために生産量を増やしています。二つ目は、輸出市場の需要の増加です。2021年1〜9月の家庭用品の輸出額は18億ドルで、前年同期比98%増を記録しました。背景には、生産性を高めるためのデジタル技術の導入やDXの促進に加え、政府による事業環境の改善策や支援があると考えられます。

日本企業にとって、家電部門を持つインドネシアの製造業への投資は、東南アジア地域での生産・販売基盤を確保する手段になります。対象企業の評価では、国内向けと輸出向けの売上構成、デジタル技術の導入状況、政府支援の適用状況を確認する必要があります。

エンターテインメント

インドネシアのエンターテインメント産業は、主に国民の所得水準の上昇により、大きな成長を遂げようとしています。先進国で消費の嗜好が「モノ消費」から「コト消費」にシフトしてきたのと同様、インドネシアでも経済成長に伴ってエンターテインメントへの支出が徐々に増加しています。生活の最低限のニーズを超えた段階で起きる消費の変化であり、余暇活動の重要性が高まっていることを示しています。

成長の主な原動力は、オンラインプラットフォーム、特にYouTubeなどの動画共有サイトの存在感です。インドネシアは視聴者数が世界で最も多い国の一つとされ、各種SNSでのエンゲージメントの高さは、デジタルコンテンツ消費への文化的変化を示しています。各国のストリーミング動画の総視聴時間の増加率(2019〜2021年)を見ると、インドネシアは140%に達し、世界最高という結果でした。

オンライン動画の視聴が多い理由の一つは、全国規模のテレビ番組が単調で革新性に欠けるとされ、地上波の番組に不満を持つ視聴者が、より魅力的で多様なコンテンツを求めて無料で手軽なオンラインの代替に向かっていることです。この変化は、進化する消費者の欲求に応えようとするコンテンツクリエーターやデジタルメディア企業に大きな機会をもたらしています。

一方で、需要が急速に高まっているにもかかわらず、業界を支えるインフラや施設は不十分と考えられます。ジャカルタなどの主要都市やジャワ島各地でも、コンサートホール、カラオケ、ゲームセンター、複合エンターテインメント施設などの選択肢は依然として限られています。開発が遅れている地域の都市には、娯楽施設がまったくないことも珍しくありません。この施設面の制約は、国内外の企業が産業の可能性を実現する能力を制約しており、戦略的な投資が必要なギャップになっています。

日本企業にとっては、コンテンツと施設という二つのギャップのどちらを狙うかが最初の判断になります。コンテンツはデジタル配信を通じて参入しやすい一方、宗教・文化への配慮が必要です。施設は投資規模が大きい反面、競合が少ない地域では先行者の優位を得やすくなります。

IT・SaaS

インドネシアのITおよびSaaS業界は、急成長する中小零細企業(MSME)部門に支えられ、大きな成長機会をもたらしています。6,400万を超えるMSMEが国のGDPの約60%に貢献しており、使いやすいアプリとサービスの需要は上昇しています。中小零細企業の経営者は、会計、人事管理、損益追跡、マーケティングなどの管理・運用業務を簡素化するソリューションを求めています。こうした経営者向けにカスタマイズされたSaaSは、生産性と運用効率を大幅に向上させます。

インターネット普及の高まりにより、インターネットベースの業務管理サービスの需要はさらに加速しています。約2億人を超えるアクティブなインターネットユーザーが存在するインドネシアは、東南アジア最大のオンライン市場の一つです。企業が業務管理のためにデジタルソリューションへの依存を強めるにつれ、インターネットベースのサービスは、従来の商慣行と最新の手法の間のギャップを埋める不可欠なツールになっています。

政府も経済成長におけるテクノロジーの重要性を認識し、企業のデジタル変革を支援する取り組みを始めています。若くテクノロジーに精通した人口とあわせて、IT・SaaS業界は大きな成長を遂げる環境が整っています。国内外のIT企業が主要なサービスプロバイダーとしての地位を確立する機会があり、堅牢でスケーラブルなユーザー指向のソリューションを提供する企業に伸びしろがあります。

近年インドネシアで存在感のあるSaaS企業の例を挙げます。

企業 概要
Jurnal(ジャーナル) 中小企業オーナー向けにWebベースの会計ソリューションを提供するSaaSスタートアップ。会計管理を簡素化し、どのデバイスからでも事業を運営できる利便性を提供
Sirclo(サークロ) 事業者が製品をオンラインで販売できるようにするEコマーステクノロジー企業。電子商取引ソリューション「Sirclo Store」と、上流から下流までのイネーブラーサービス「Sirclo Commerce」を提供。2018年には収益が4倍に成長
Jojonomic(ジョジョノミクス) 2015年設立。クラウドベースの財務アプリケーションで管理作業を削減。SaaS、B2B、フィンテックのモデルで東南アジアの大企業にサービスを提供
Member(メンバー) 顧客ロイヤルティプログラムの品質向上を目指すSaaSスタートアップ。ロイヤルティポイントの戦略開発、設計、管理、データ分析などの機能を提供

M&Aの観点では、MSME向けSaaSは顧客数が多い一方で単価が低く、解約率と決済手段への対応が事業価値を左右します。対象企業の製品が現地の商慣行と決済手段に適合しているかを確認する必要があります。

日本企業が確認すべきこと

  • 4分野のうち、自社の技術・運営ノウハウが現地企業の課題解決に直結する分野はどれか。
  • 物流:対象企業の拠点・路線と、政府のインフラ投資の恩恵を受ける地域の重なり。
  • 家電製造:国内向けと輸出向けの売上構成、デジタル技術の導入状況、政府支援の適用状況。
  • エンターテインメント:コンテンツと施設のどちらを狙うか。宗教・文化への配慮と地域ごとの競合状況。
  • IT・SaaS:対象企業の顧客数、解約率、決済手段への対応、現地の商慣行との適合。

検討にあたっての論点

  • 自社の参入目的は販路、生産拠点、技術のどれか。それに応じて4分野のどこを優先するか。
  • デジタル化が進む市場とレガシーな市場の格差の中で、自社はどちら側に価値を提供できるか。
  • 現地スタートアップへの出資と既存企業の買収のどちらが、対象分野と自社の体制に合うか。
  • 本記事で挙げた統計は出典と時点が異なる。投資判断ではどの数値を一次情報で確認するか。

本記事の数値・制度は2024年8月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。

日本企業への示唆

インドネシアの成長分野は、Eコマース、製造業、所得上昇、デジタル化という構造的な変化に支えられています。日本企業にとっては、自社の技術や運営ノウハウが現地企業の課題(物流効率、生産性、コンテンツ・施設の不足、業務のデジタル化)に対して価値を持つ分野を選ぶことが出発点になります。

  • 分野の選択:4分野のうち、自社の技術・ノウハウが現地の課題解決に直結する分野を優先する。
  • 対象企業の評価:顧客基盤、インフラ整備の恩恵、規制・文化への適合を軸に候補を比較する。
  • 参入形態:現地スタートアップへの出資から既存企業の買収まで、分野ごとに適した形を選ぶ。

検討前に確認したいこと

  • 14分野のうち、自社の既存事業や技術と接続する分野はどれか。参入目的(販路、生産拠点、技術)を明確にしたか。
  • 2物流や家電製造では、対象企業の顧客基盤とインフラ整備の恩恵を受ける地域を評価したか。
  • 3エンターテインメントでは、コンテンツと施設のどちらのギャップを狙うか、規制や文化的要件を確認したか。
  • 4IT・SaaSでは、中小零細企業向けの製品が現地の商慣行と決済手段に適合しているかを確認したか。

出典・注記

  1. [1] インドネシア物流市場の成長率(インドネシア物流協会・インドネシア商工会議所)
  2. [2] 製造業生産額に関する報告書(2023年)(国連統計局)
  3. [3] ILMATE部門のGDP寄与(インドネシア中央統計局(BPS))

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