グリーン経済で新たな価値創造を: インドネシアの魅力的なグリーンビジネス市場
インドネシアのグリーン経済は、再生可能エネルギーと持続可能な農林業を二本柱に政府主導で進んでいます。投資実績では製造業が首位、再生可能エネルギーは最下位で、伸びしろが大きい分野です。優先分野とインセンティブ、日本企業の事例を整理し、投資・M&Aの検討に必要な視点を示します。

この記事の要点
- 1インドネシア政府は2025年までに再生可能エネルギー比率23%を目標に掲げています(2024年時点)。
- 2グリーン経済の優先分野は、エネルギー・鉱業、製造業、建築・サービス、再生可能エネルギー事業の4分類です。
- 3投資実績(過去5年)では製造業が首位、再生可能エネルギーは最下位で、開拓余地が大きい分野です。
- 4大統領令第112/2022号に基づき、所得税、輸入関税、土地建物税などの優遇が用意されています。
- 5丸紅、トヨタ、王子HDなど日本企業の参入例はあるものの、主導権を取れている企業はまだ少数です。
本記事は2024年9月時点の情報に基づきます。
気候変動、資源枯渇、環境悪化への懸念を背景に、グリーン経済は世界的に大きな注目を集めています。天然資源に恵まれたインドネシアも、政府としてグリーン経済戦略を掲げ、海外からの投資を積極的に誘致しています。
本記事では、インドネシアのグリーン経済戦略の二本柱、国内需要の変化、政府が定める優先分野とインセンティブ、日本企業の参入事例を整理します。そのうえで、日本企業がこの分野で投資やM&Aを検討する際に確認すべき点を示します。
グリーン経済とは何か
国連環境計画(UNEP)の報告書では、グリーン経済を「経済成長を達成しながら、持続可能で環境にやさしい経済」と定義しています[1]。低炭素、資源効率、社会的に包括的な経済への移行を目指す考え方です。
インドネシアは発展途上国としてグリーン経済の実現を重視しています。環境問題への対処だけでなく、新たな経済的機会を生み出し、国民の生活の質を向上させることも目的としている点が特徴です。
インドネシアのグリーン経済戦略の二本柱
インドネシアのグリーン経済戦略は、大きく「再生可能エネルギーの開発」と「持続可能な農業と林業の推進」の二つに整理できます。
再生可能エネルギーの開発
インドネシアには豊富な再生可能資源があり、太陽光、風力、水力、地熱といったクリーンエネルギー生成の大きな可能性を秘めています。
- 太陽光発電:年間を通じて豊富な日照量があり、効果的に活用できる条件が整っています。
- 水力発電:多様な地形と多数の河川が、水力発電の大きな可能性を支えています。
政府は国家エネルギー政策の一環として、2025年までに再生可能エネルギーがエネルギーミックス全体の23%を占めることを目標に掲げています(2024年時点)。これに伴い海外からのグリーンテクノロジーおよびインフラへの投資を誘致しており、日本のエネルギー産業にとって大きな事業機会があります。政府は建物、産業、輸送システムのエネルギー効率を向上させるプログラムにも投資しています。
持続可能な農業と林業の推進
インドネシアは広大な国土を有し、その多くが農地と森林です。農業と林業はインドネシア経済において重要な役割を果たしています。政府は持続可能な農業を通じて食糧安全保障を目指し、持続可能な林業を通じて生物多様性の保護と森林破壊の削減を目指しています。具体的には、有機農業、アグロフォレストリー、持続可能な土地管理の推進が含まれます。

拡大する国内需要とEV市場
グリーン製品・サービスに対する国内需要の高まりは、インドネシアのグリーン経済の大きな原動力です。環境問題に対する消費者の意識が高まるにつれ、持続可能で環境に優しく、社会的責任のある製品への関心が高まっています。オーガニック食品、環境に優しい家庭用品、省エネ家電、再生可能エネルギーソリューションなどの市場が拡大しています。
中間層の増加に伴う消費市場の拡大は、今後大きな需要を生み出す可能性が高く、グリーン技術および製品への投資機会につながります。近年は電気自動車(EV)市場が急拡大しています。消費者がEVの環境的利点を認識するようになったことに加え、政府がEV購入のインセンティブを提供したことが背景にあります。

EVの普及に伴い、インドネシアではEV充電ステーションの数が大幅に増加し、さまざまなメーカーのEVモデルが利用可能になりました。バッテリー製造や充電インフラを含むEV市場に参入する外国企業も増えています。M&Aの観点では、需要の立ち上がり局面で販路や充電網を持つ現地企業の価値が高まる点に注意が必要です。

グリーン経済の優先分野と投資実績
インドネシア政府はIGGP(インドネシアグリーン成長プログラム)を通じて、政策、計画、投資を含む国家グリーン経済成長ロードマップを立ち上げました。このロードマップでは、優先分野を以下の4つのカテゴリーに分類しています。
- エネルギー・鉱業
- 製造業
- 建築・サービス産業
- 再生可能エネルギー事業
これらのカテゴリをインドネシア投資庁(BKPM)の投資分類と対応づけると、下記の図のように整理できます[2]。

この対応づけにより、グリーン経済の優先セクターへの総投資実績額を測定できます。図2を見ると、過去5年間のインドネシアへの国内・国外からの投資実績総額は増加し続けています。うち製造業部門は常に首位である一方、再生可能エネルギー部門は常に最下位となっています。投資全体が伸びているなかで、注目を集める再生可能エネルギー事業には今後さらに伸びる余地があると期待できます。

投資庁の見通しでは、外国投資が求められる具体的な事業カテゴリーとして次が挙げられています。
| 優先分野 | 外国投資が求められる事業の例 |
|---|---|
| エネルギー・鉱業 | 再生可能エネルギーの利用と省エネルギーへの移行に関連する事業(地熱エネルギー、バイオエネルギー、その他各種再生可能エネルギー) |
| 製造業 | 天然資源の効率化や循環経済の導入に向けた事業(バイオ燃料をはじめとした新・再生可能エネルギー(EBT)の利用など)、電動車両・バッテリーベース電気自動車(KBLBB)の工業化、炭素吸収技術、クリーンエネルギーベースの産業開発、水力発電所(PLTA)、グリーン産業認証 |
| 建築・サービス産業 | グリーンインフラ、持続可能な輸送、エネルギー効率の高い建物、廃棄物管理システム、デジタルインフラ(光ファイバー、衛星、基地局(BTS)など)、データセンターなどの下流インフラの開発 |
| 再生可能エネルギー事業 | 農作物部門(脱炭素経済の最適化)、林業部門(インドネシア持続可能パーム油(ISPO)認証の実施)、水産業部門(下流漁業、養殖、漁業サービス、漁獲、加工など) |
自社の技術や製品がこの表のどこに当てはまるかを確認することは、政府の誘致意図と自社の投資テーマの一致を確かめる作業です。一致していれば、後述のインセンティブや許認可の面で追い風を受けやすくなります。
政府のインセンティブ制度
インドネシア政府はグリーン産業の成長を促進するため、グリーンビジネスの産業種類に対して設備、利便性、インセンティブを保証する規制を設けています。再生可能エネルギー・新エネルギーへの投資に対する電力供給関連のインセンティブは、電力用再生可能エネルギー開発の加速に関する大統領令第112/2022号に記載されています[4]。
インセンティブ制度は金銭的インセンティブと非金銭的インセンティブで構成されます。金銭的インセンティブの例は次のとおりです。
- 所得税制度
- 輸入関税の免除または輸入品に対する税金の優遇
- 土地および建物の税制優遇措置
- 地熱開発への支援
- 政府から委託された国有企業・代理店を通じた融資制度および保証のサポート
政府が海外投資家の主なターゲットとしているのは、欧州連合、英国、米国、カナダ、オーストラリア、中国など、クリーン・低排出エネルギーへの移行に強くコミットする国の投資家です。同時に、現在石炭などの化石エネルギーに投資している投資家に対し、新エネルギー・再生可能エネルギーへの投資割合の拡大を促す効果も期待されています。
つまりこの規制には、グリーン投資に関心のある新たな投資家を呼び込む点と、採掘エネルギー投資家がグリーンセクターへの投資を増やすきっかけとなる点で、二つの利点があります。日本は長年にわたりインドネシア経済に多大な投資を行っており、この傾向はグリーン経済やグリーン産業にも及んでいます。
日本企業によるグリーンビジネスの事例
インドネシアでグリーンビジネスを行っている日本企業の事例を、元記事の整理に基づいて示します。
| 事業領域 | 会社名 | 概要 |
|---|---|---|
| 再生可能エネルギー | 丸紅株式会社 | 太陽光発電所や地熱発電所など、インドネシアの複数の再生可能エネルギープロジェクトに投資 |
| 再生可能エネルギー | トヨタ自動車株式会社 | 太陽光発電所を開発するため、インドネシアの国営電力会社PLNと合弁会社を設立 |
| 輸送プロジェクト | スズキ株式会社 | インドネシアで燃費の良い車の生産に携わり、炭素排出量の削減に貢献 |
| 輸送プロジェクト | デンソー株式会社 | 電気自動車部品の生産など、インドネシアの自動車産業を支援するために事業所を設立 |
| 林業・農業 | 王子ホールディングス | インドネシアの持続可能な林業プロジェクトに投資 |
| 林業・農業 | 丸紅株式会社 | インドネシアのパーム油農園に投資し、持続可能なパーム油の生産を推進 |
| その他のグリーンビジネス | パナソニック株式会社 | インドネシアに事業所を設立し、太陽光パネルやその他の省エネ製品を製造 |
| その他のグリーンビジネス | 東芝株式会社 | インドネシアで省エネ技術とインフラプロジェクトに投資 |
上記はごく一部であり、ほかにも多くの日本企業がグリーンエネルギー分野で事業を行っています。この領域は投資規模が大きく、投資期間も長くなる傾向があるため、二の足を踏む企業も少なくありません。一方で、既に参入した企業が主導権を確立できているとは言い難く、参入余地は残されています。

日本企業が確認すべきこと
グリーン分野への参入は、新設投資だけでなく、既に許認可や用地、系統接続、販路を持つ現地企業への出資・買収という選択肢があります。回収期間の長い分野では、この参入形態の違いが投資判断に大きく影響します。
- 自社の事業が優先4分野のどこに該当し、インセンティブの適用対象になるか。
- インセンティブが新設投資に限られるのか、既存企業の買収でも引き継げるのか。
- PLNなど国有企業との電力買取契約や許認可の条件を、契約でどこまで固められるか。
- 対象企業が持つ許認可・用地・系統接続の権利が、株主変更後も維持されるか。
- 環境認証(ISPOなど)の取得状況と、買収後の維持に必要な体制。
見落としやすいのは、政府の目標値や優遇制度を前提に事業計画を組み、制度変更時の耐性を検討しない点です。目標の達成状況や制度の運用は変わりうるため、一次情報での継続的な確認が欠かせません。
検討にあたっての論点
- 自社の技術・製品は、インドネシア政府の優先4分野のどこで最も評価されるか。
- 新設投資と、許認可や販路を持つ現地企業への出資・買収のどちらが、回収期間と難度の面で合理的か。
- 大統領令第112/2022号などのインセンティブを、自社の投資形態で確実に受けられる設計になっているか。
- 国有企業が関与する契約や許認可の条件変更リスクを、投資判断にどう織り込むか。
- 投資規模と期間に見合う社内の意思決定体制と、現地パートナーの選定基準は整っているか。
本記事の数値・制度は2024年9月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。
日本企業への示唆
グリーン分野は政府の優先度が高く優遇も厚い一方、投資規模が大きく回収期間が長いため、参入形態の選択が成否を分けます。既に許認可や用地、販路を持つ現地企業への出資・買収は、自前で立ち上げるより時間を短縮できる選択肢です。
- 分野の選択:優先4分野のうち、自社の強みと政府の誘致意図が重なる領域を特定する。
- 参入形態:新設、合弁、既存事業の買収を、回収期間と許認可の取得難度で比較する。
- 制度の確認:インセンティブの適用条件と、国有企業が関わる契約条件を初期段階で精査する。
検討前に確認したいこと
- 1自社の技術や製品は、インドネシア政府が定める4つの優先分野のどこに位置づけられるか。
- 2大統領令第112/2022号などのインセンティブは、自社の投資形態(新設・出資・買収)で受けられるか。
- 3投資規模が大きく回収期間が長い分野で、単独投資と現地企業の買収・提携のどちらが合理的か。
- 4PLNなど国有企業が関わる分野で、電力買取や許認可の条件を契約でどこまで固められるか。
- 5現地の許認可・用地・系統接続を持つ企業を対象とする場合、その権利の移転可能性を確認したか。
出典・注記
- [1] グリーン経済の定義に関する報告書(国連環境計画(UNEP))。元記事が定義の引用元として言及。URLは未確認。
- [2] グリーン経済優先セクターの投資実績(2023年)(インドネシア投資省/投資調整庁(BKPM))。元記事の図2・図3の出典。URLは未確認。
- [3] インドネシアEV市場に関する統計(Gaikindo(インドネシア自動車製造業者協会))。元記事の図1の出典。URLは未確認。
- [4] 電力用再生可能エネルギー開発の加速に関する大統領令第112/2022号(インドネシア政府)。インセンティブ制度の根拠法令として元記事が言及。
執筆
ReDelta Insights編集部
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