東南アジアのメッセンジャーアプリ事情
東南アジアではメッセンジャーアプリの勢力図が国ごとに異なり、インドネシアはWhatsApp、ベトナムはZalo、タイはLINEが生活インフラになっています。各国の普及状況と背景を整理し、日本企業が現地の顧客接点や対象企業のデジタル基盤を評価する際の視点を示します。

この記事の要点
- 1インドネシアではWhatsAppの利用率が90%近く、約1.5億人が使うとされます(2024年時点)。
- 2インドネシアのスマートフォン使用率は2013年の14%から2017年に60%へ急伸しました。
- 3ベトナムのZaloは月間アクティブユーザー約5,200万人で、運営元VNGは同国初のユニコーンです。
- 4タイではLINEが約4,500万人以上に使われ、決済や配達など生活サービスと一体化しています。
- 5アプリの勢力図は、現地でのマーケティングやCRM、対象企業の顧客基盤評価に直結します。
本記事は2024年9月時点の情報に基づきます。
メッセンジャーアプリは現代のコミュニケーションに欠かせないものになりました。メッセージの送受信だけでなく、音声通話、ビデオ通話、画像や動画の共有、ファイルのやり取りなど、個人間の連絡にもビジネスコミュニケーションにも広く使われています。
日本ではLINEが日本人の86%に使われているとされ、生活の一部となっています。一方、東南アジアの事情は国ごとに異なります。ベトナムではZalo、インドネシアではWhatsAppが主なメッセンジャーアプリです。本記事では、東南アジア各国で使用されているメッセンジャーアプリとその背景を整理し、日本企業が現地で顧客接点を設計する際に何を確認すべきかを考えます。
インドネシア:WhatsAppが生活インフラ
インドネシアで最も普及しているメッセンジャーアプリはWhatsAppです。WhatsAppはMeta社(旧Facebook)が提供するアプリで、2009年に設立され、2014年にFacebookに買収されました。テキストメッセージ、音声通話、ビデオ通話、画像や動画の共有など、シンプルで強力な機能を提供し、スマートフォンを持つほぼすべての人が使えるアプリとして知られています。
インドネシアではWhatsAppの利用率が90%近くとされ、総人口約2.7億人に対して約1.5億人近くが利用していると言われています(2024年時点の公開情報)。個人間の連絡だけでなく、小規模事業者の受注や顧客対応もWhatsApp上で行われることが一般的です。
若年層におけるモバイル普及率
インドネシアでは若年層を中心にスマートフォンの普及が急速に進んでいます。2013年にはわずか14%だったスマートフォン使用率が2017年には60%に急増し、2025年までには90%近くまで普及すると予測されています。
安価なモバイル端末の普及によりインターネットへのアクセスが容易になり、インドネシアの若者のインターネットやSNSの利用時間は日本より長いとも言われています。M&Aの観点では、対象企業の顧客接点がモバイル前提で設計されているかどうかが、買収後の販売拡大の余地を左右します。
ベトナム:国産アプリZaloが過半数を握る
ベトナムではZaloというメッセンジャーアプリが多くの国民に利用されています。Zaloは「ベトナム版LINE」とも呼ばれ、基本的なチャット、音声・ビデオ通話に加え、ライブ配信、タイムライン機能、ニュースフィードなどを備えています。月間アクティブユーザーは約5,200万人で、ベトナム人口の過半数が利用しているとされます。
ベトナムのスタートアップ事情
ベトナムもインドネシアと同様に、安定した経済発展と中間層の拡大を背景にスマートフォン利用者が急増し、Eコマースや配車アプリ分野でスタートアップが急成長しています。ベトナムには2,100社以上のスタートアップ企業が存在するとされ、スタートアップを支える環境も徐々に整ってきました。
Zaloを提供するVNGは2004年に設立されたスタートアップで、ベトナム初のユニコーン企業です。VNGは2023年にIPOしましたが、日本からはサイバーエージェントが同社に出資していました。
ベトナム政府はスタートアップエコシステムを2025年までにアジアトップ15に押し上げるため、National Program 844(Project 844)という国家プロジェクトを立ち上げ、政策面や資金調達の環境整備に力を入れています。特に技術革新型のスタートアップに対する支援が充実しており、今後も成長が期待される分野です。
VNGへの当局介入が示す基盤リスク
2024年9月6日、Zaloを運営するVNGのホーチミン本社にベトナム警察の家宅捜索が入りました。VNGは翌7日、創業者のレ・ホン・ミンCEOの職位について言及がないまま、ケリー・ウォン(Kelly Wong)副CEOをCEO代行に任命すると発表しました。
この出来事は、ベトナムでの企業運営には政府による監視や介入の可能性が伴うことを示しています。今後のVNGの行方次第では、ベトナムへの投資環境が変化する可能性も否定できません。生活インフラとなったプラットフォームの運営企業に対する当局の関与は、そのプラットフォームに依存する事業者にとっても評価すべきリスクです。
タイ:日本と同じLINEが浸透
タイで最も普及しているメッセンジャーアプリは日本と同じLINEで、利用者数は約4,500万人以上と言われています。
普及の最大の要因は、タイ政府のデジタル化推進と歩調を合わせ、LINE Payなどの決済機能、スタンプ、LINE MAN(フードデリバリー)、LINE SHOPPINGなど、生活に密着した多様なサービスが提供されたことです。これによりLINEはタイ国民の日常生活に欠かせないインフラとなりました。
タイでは多くの企業がLINE公式アカウントを運営し、顧客とのコミュニケーションやマーケティングに活用しています。個人利用者だけでなくビジネスユーザーにも広がり、日本と同じように日常生活に深く浸透しています。日本企業にとっては、日本での運用ノウハウを比較的そのまま持ち込みやすい市場と言えます。
各国の主要メッセンジャーアプリの比較
| 国 | 主要アプリ | 運営元 | 利用規模(元記事掲載時点) | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| インドネシア | Meta | 利用率90%近く、約1.5億人 | シンプルな機能で幅広い層に普及。小規模事業者の顧客対応にも使われる | |
| ベトナム | Zalo | VNG | 月間アクティブユーザー約5,200万人 | 国産アプリ。ライブ配信やニュースフィードを備える |
| タイ | LINE | LINE | 約4,500万人以上 | 決済、配達、ショッピングなど生活サービスと一体化。企業の公式アカウント運用が浸透 |
日本企業が確認すべきこと
メッセンジャーアプリのようなインフラ級のプラットフォームは、Meta規模の企業でない限りM&Aの対象になりにくい領域です。一方で、メッセンジャーを含むモバイルアプリのM&Aは今後さらに加速すると予測されており、特にフィンテック、Eコマース、デジタルエンターテインメント分野で動きが活発化しています。
現地企業への出資や買収、あるいは自社での進出を検討する際には、次の点を確認しておきたいところです。
- 進出先の国で、顧客や取引先との主要な連絡手段は何か。自社の営業・カスタマーサポートは対応できるか。
- 対象企業の顧客基盤や販売がどのプラットフォームに依存しているか。アカウントや顧客データは買収後も引き継げるか。
- プラットフォーム側の規約変更、手数料、当局介入が、対象企業の事業に及ぼす影響。
- 日本で構築したLINE中心の運用を、WhatsAppやZaloにどこまで置き換える必要があるか。
見落としやすいのは、対象企業の「顧客リスト」が実態としては個人のWhatsAppアカウント上にあり、担当者の退職とともに失われるケースです。顧客接点が組織として管理されているかどうかは、デューデリジェンスで確認する価値があります。
検討にあたっての論点
- 自社の進出先で顧客接点となる主要アプリは何か。日本の運用をどこまで転用できるか。
- 対象企業の顧客基盤は、組織として管理されたプラットフォーム上にあるか。それとも個人アカウントに依存しているか。
- プラットフォーム運営企業への規制や当局介入を、対象事業の基盤リスクとしてどう織り込むか。
- モバイル前提の顧客接点を持つ企業と組むことで、自社の販売や顧客対応にどのような拡張余地が生まれるか。
本記事の数値・制度は2024年9月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。
日本企業への示唆
メッセンジャーアプリは各国の生活インフラであり、現地企業の顧客接点や営業活動の多くがその上で動いています。日本での運用をそのまま持ち込むのではなく、進出先の主要アプリに合わせて顧客接点を設計することが、買収後の顧客維持や販売拡大の前提になります。
- 顧客接点の設計:進出先の主要アプリ(WhatsApp、Zalo、LINE)に合わせた営業・CRMの運用。
- 対象企業の評価:顧客基盤がどのプラットフォーム上にあり、買収後も継続利用できるかの確認。
- 基盤リスク:プラットフォーム運営企業への規制・当局介入が、事業に及ぼす影響の把握。
検討前に確認したいこと
- 1進出先の国で顧客・取引先との主要な連絡手段は何か。自社の営業・CRMはそれに対応しているか。
- 2対象企業の顧客基盤は、どのメッセンジャーやSNSの上に構築されているか。移転可能か。
- 3対象企業のデジタル接点(公式アカウント、決済連携)は、買収後も同条件で使い続けられるか。
- 4プラットフォーム運営企業への当局介入など、事業基盤側のリスクをどう評価するか。
- 5自社の日本での運用(LINE中心)を、現地の主要アプリにどこまで置き換える必要があるか。
執筆
ReDelta Insights編集部
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