インドネシアの旅行市場徹底分析
インドネシアの旅行業界はGDPの約5%を占め、2022年には経済規模が前年比29.5%増の約1,008兆ルピアに回復しました。国内旅行は年7億件を超え、OTAは2社で72%を占めます。市場データ、観光振興策と投資環境、2033年までの成長予測を整理し、日本企業がホテル・旅行会社・旅行テックで参画する論点をまとめます。

この記事の要点
- 1旅行業界はGDPの約5%を占め、2022年の経済規模は前年比29.5%増の約1,008兆ルピア(2025年3月時点)。
- 2外国人観光客は2024年に1,390万人で2019年比約86%まで回復。国内旅行は2022年に約7億3,400万件。
- 3OTAはTravelokaとTiket.comの2社で市場の72%を占め、Travelokaは単独で約51%。
- 43つ星以上のホテルは外資100%所有が可能で、観光SEZでは最長20年の法人税免除などの優遇がある。
- 5WTTCは2033年の国際観光客を約2,998万人(年平均11.8%増)と予測している。
本記事は2025年3月時点の情報に基づきます。
インドネシアの旅行市場は近年力強い成長を遂げており、インドネシア経済における重要度を増しています。旅行業界はGDPの約5%を占め、1,200万人以上の雇用を支える主要セクターです。新型コロナウイルス禍からの回復も目覚ましく、2022年には旅行業界の経済規模が前年比29.5%増の約1,008兆ルピア(約9.2兆円)に達しました。
日本企業にとって、世界的に知られるバリ島のみならず、新興観光地の開発や旅行テック分野で投資機会が広がっています。本記事では、インドネシアの旅行市場をデータに基づいて整理し、投資環境と今後の展望、日本企業が参画を検討する際の論点をまとめます。
インバウンドと国内旅行の回復
インドネシア旅行業界は、過去5年間においてパンデミックによる外国人観光客の急減と、その後の急回復という劇的な推移をたどりました。

2019年には外国人観光客の年間訪問者数が過去最高の1,610万人を記録しました。しかし、2020年から2021年にかけてのコロナ禍により、国境封鎖の影響で訪問者数は大幅に減少しました。2022年以降は回復傾向にあり、2023年は前年比98%増、2024年には1,390万人に達し、コロナ前の水準(2019年比で約86%)に迫りました。
一方、国内旅行市場はインドネシア経済の底堅さを反映し、コロナ禍からの回復がより早く進みました。UNWTOによれば、2022年のインドネシア国内観光旅行の延べ件数は約7億3,400万件に達し、パンデミック前に匹敵する水準となりました。2023年はさらに増加し、1〜8月時点で6億7,460万回の国内旅行が行われ、既に2022年の同時期実績を上回りました。この旺盛な国内需要は、外部要因に左右されにくい市場の安定剤として機能しています。
M&Aの観点では、対象企業の顧客がインバウンドと国内旅行者のどちらに依存しているかで、需要変動への耐性が大きく異なります。パンデミック期の業績推移は、この耐性を確認する材料になります。
旅行テックとOTAの寡占
旅行テック(オンライン旅行市場)も著しい成長を見せています。オンラインで旅行商品を予約・購入する市場規模の推移は次のとおりです。
| 年 | 市場規模 |
|---|---|
| 2017年 | 約990兆ルピア(約9兆円) |
| 2020年 | 520兆ルピア(コロナ禍で落ち込み) |
| 2022年 | 約970兆ルピア(約8.9兆円) |
| 2023年(見通し) | 1,280兆ルピア(約11.7兆円) |
2017〜2027年の年平均成長率は7%と予測されています。オンライン旅行代理店(OTA)の寡占化も進んでおり、2022年時点で、現地発のユニコーン企業TravelokaとTiket.comの2社で市場の72%を占有しています。

なかでもTravelokaは単独で約51%のシェアを握り、総合旅行スーパーアプリとしてホテル・航空券から決済サービスまで幅広く展開しています。Tiket.comもEC大手Blibliとの連携により追随しており、海外勢ではAgodaやBooking.comなどが存在感を示しています。
大手OTAの寡占は、ホテルや旅行会社を買収する場合の送客依存度と手数料負担に直結します。対象企業の予約経路の構成は、収益性を見る上で確認が必要な項目です。
政府の観光振興策
政府の観光振興策も市場トレンドに大きな影響を与えています。インドネシア政府は「10の新たなバリ」構想を掲げ、2019年以降、バリ島以外の有望観光地への開発投資を加速しました。

現在は、その中でも選定された5つのスーパープライオリティ観光地に注力し、交通の利便性向上のためのインフラ整備やプロモーションを集中的に展開しています。
| 観光地 | 所在 |
|---|---|
| トバ湖 | スマトラ島 |
| ボロブドゥール | ジャワ島 |
| マンダリカ | ロンボク島 |
| ラブアンバジョ | 東ヌサトゥンガラ州 |
| リクパン | 北スラウェシ州 |
これにより、バリ島に集中しがちな観光客を他地域に分散させ、環境悪化や過度な集中を是正するとともに、全国的な観光収益の底上げが図られています。また、ワールドクラスのイベント誘致やスポーツツーリズムの推進にも力を入れており、MotoGPレースの開催(ロンボク島)などによって新興観光地への注目を集めました。さらに、観光ビザ要件の緩和や海外向けプロモーション強化により、2022年以降、主要国からの訪問者数も着実に回復しています。
投資環境と規制フレームワーク
外資参入の緩和と投資インセンティブ
インドネシアの旅行業界における投資環境は、近年大きく改善されています。外資参入規制については、ホテル業をはじめ多くの分野で規制緩和が進み、たとえば3つ星以上のホテルやヴィラは外国資本100%での所有・運営が認められています。旅行代理店業も外資による現地法人設立が可能で、必要な投資計画を提出し許認可を受ければ営業できます。
また、2021年施行の「ポジティブ投資リスト」により、以前は制限のあった観光関連セクターへの外国直接投資(FDI)が容易になりました。2023年のホテル・レストラン分野へのFDI実行額は約8.1億ドル(約1,220億円)に達しており、投資マインドの高まりが数字に表れています。
政府の支援策と法制度も、観光分野への投資を後押ししています。2020年の包括的雇用創出法(オムニバス法)により事業許認可手続きが簡素化され、観光業の起業に必要な手続きもワンストップ化されました。特に観光開発地域では、特別経済区(SEZ: Special Economic Zone)の指定を通じてインセンティブが提供されています。

観光SEZに投資する企業が受けられる主な優遇は次のとおりです。
- 最長20年間の法人税免除
- 付加価値税・贅沢税の免除
- 輸入関税の免除
- ワンストップでの許認可取得
- 外国人による不動産所有の容認(観光SEZ内)
たとえば、リゾート開発が進むロンボク島マンダリカや北スラウェシのリクパンは観光特区に指定され、投資家は税優遇や用地取得の容易さといったメリットを受けられます。また、政府は2023年10月に「インドネシア観光促進基金」の創設を発表し、国家予算からの資金供給で高品質かつ持続可能な観光プロジェクトを支援する方針です。この基金は国際会議・文化イベント・スポーツ大会等の開催支援に充てられ、外国人観光客の誘致と地方観光地の開発を金融面から後押しする狙いがあります。
インフラ整備による投資環境の向上
インフラ整備も投資環境改善における重要な要素です。政府は、観光地へのアクセス向上のため、空港、新規道路、港湾の建設に積極的な姿勢を見せています。2023年には1兆2,200億ルピア(約112億円)の予算を投じて国内各地に7つの新空港建設を開始し、特に観光戦略拠点であるコモド(ラブアンバジョ)やワカトビ、トバ湖などの空港拡張・改修に注力しています。
高速道路網や鉄道の拡充も進み、主要観光地間の移動時間短縮による旅行の利便性向上が期待されています。たとえばジャワ島では、世界遺産ボロブドゥールへのアクセス改善のため国際空港(ジョグジャカルタ新空港)の開港や周辺道路の整備が行われました。これらの官民連携によるインフラ投資は、観光客の満足度向上と投資対象地域の価値向上につながっています。
投資判断においては、インフラ計画の進捗が対象地域の集客見通しを左右します。計画段階の案件と、既に開港・開通した案件では、前提とすべきリスクが異なります。
市場予測と今後の展望
成長予測
インドネシア旅行業界は、中短期的にもさらなる成長が見込まれています。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の予測によれば、インドネシアを訪れる国際観光客数は2033年までに約2,998万人に達し、2023年比で年平均11.8%増の成長が見込まれます。同年に外国人観光客がインドネシアで消費する旅行支出額は約4,888兆ルピア(約44.7兆円)に達する計算で、旅行業が引き続き国内経済成長の原動力となる見込みです。
短期的にも、2025年前後にはインバウンドがコロナ前の水準(2019年=1,610万人)を上回り、新興観光地への分散効果も相まって観光収入は過去最高を更新すると期待されています。
国内旅行についても、堅調な経済成長と中間層の台頭に支えられ、中長期でさらなる拡大が予想されます。政府は2019年に国内観光旅行2億7,500万回という目標を掲げましたが、実際にはそれを大きく上回るペースで利用者が増えています。地方へのインフラ投資やデジタル普及によって、地方都市や村落の観光資源がよりアクセスしやすくなり、国内旅行需要が一段と喚起されました。
技術革新
インドネシアはデジタルサービスの受容性が高く、旅行業界でもモバイルアプリやオンライン決済の普及が旅行需要を押し上げています。大手OTAによるAIを活用したパーソナライズ提案やダイナミックプライシングが一般化し、旅行商品の最適化・多様化が進んでいます。
また、スーパーアプリ化した旅行プラットフォーム上で、航空券・ホテルのみならず、現地アクティビティやレストラン予約まで一括手配する動きが定着しつつあり、ユーザー体験の向上が市場成長に寄与しています。
持続可能な観光への移行
持続可能な観光への移行も重要なテーマです。気候変動や環境保全への意識が高まる中、エコツーリズムや地域コミュニティ主導の観光開発が注目されています。インドネシア政府もサステナブルツーリズムを国家戦略に位置付け、電気自動車や再生可能エネルギーの導入、観光地でのプラスチック削減といった取り組みを支援しています。
観光業でも、大手リゾート企業がプラスチックフリー施策を導入するなど民間主導の取り組みが進んでいます。持続可能性に配慮した高付加価値の「質の高い観光」へのシフトは、観光客一人当たり支出の増加にもつながり、今後の業界成長を支える要素になります。
日本企業の参画機会と確認すべきこと
インドネシアの旅行業界は、人口約2.7億人の内需と豊富な観光資源、政府の後押しによって、今後も高い成長ポテンシャルを維持すると考えられます。日本企業には、次のような参画機会が考えられます。
- ホテルやレジャー施設への出資参画
- 現地旅行会社との提携
- 旅行テック企業との協業
すでに多くの日系企業がインドネシアのホテル経営やインバウンド誘致で実績を上げています。参画を検討する際は、次の点を確認しておくと判断がしやすくなります。
- 対象企業の顧客構成(国内旅行者とインバウンドの比率)と、パンデミック期の業績推移。
- 予約経路に占める大手OTAの比率と、手数料負担が収益に与える影響。
- 立地がバリ島か新興観光地かによる、集客の成熟度とインフラ計画への依存度。
- 観光SEZの優遇や外資100%所有の対象になるか、土地・不動産の権利関係は明確か。
- 現地人材の確保と、季節性・キャンセルへの運営面の備え。
見落としやすい点として、新興観光地の案件は政府のインフラ計画とプロモーションを前提に収益を見込んでいることが多く、計画の遅延がそのまま事業計画の遅延になります。現地の文化やニーズへの理解を深め、持続可能かつ相互に利益のある形で市場に関与することが求められます。
検討にあたっての論点
- 自社が旅行市場で担う機能は、集客・販売、施設運営、開発投資のどれか。
- 国内旅行需要とインバウンド需要のどちらを主な収益源と位置付けるか。
- OTA寡占の下で、自社の商品や施設をどう流通させ、送客依存をどう管理するか。
- バリ島の成熟市場と新興観光地の成長市場のどちらに、自社のリスク許容度が合うか。
- 持続可能性や環境対応を、対象企業の評価と買収後の運営にどう組み込むか。
本記事の数値・制度は2025年3月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。
日本企業への示唆
旅行市場の規模や観光客数は事業機会を示しますが、自社の検討に直接つながるのは、顧客・流通・運営の機能です。集客と販売、商品や在庫へのアクセス、現地の運営体制のどれを自社が担い、どれを現地企業と組んで持つのかを分けて考えると、候補企業との適合性を具体的に検討できます。
- 顧客:国内旅行者かインバウンドか、集客経路(大手OTA依存度)、リピートの構造。
- 流通と立地:バリ島集中か新興観光地か、観光SEZや外資100%所有の可否など制度面の条件。
- 運営:現地人材、季節性やパンデミックのような需要変動への耐性、持続可能性への対応。
検討前に確認したいこと
- 1自社が担いたいのは、集客・販売(OTA・旅行会社)、宿泊・施設の運営、観光地開発への出資のどれか。
- 2対象企業の顧客は国内旅行者とインバウンドのどちらが中心で、Travelokaなど大手OTAへの送客依存度はどの程度か。
- 3バリ島以外の5つのスーパープライオリティ観光地や観光SEZの優遇を、自社の投資計画にどう組み込むか。
- 4パンデミック期の需要急減に対し、対象企業はどう耐え、現在の回復はどの程度持続的か。
- 5外資規制、許認可、土地・不動産の権利関係について、専門家に確認すべき事項は何か。
この国で検討したいテーマと、当社の支援範囲・対応体制、相談から取引実行までの流れを説明しています。
インドネシアM&A・企業買収の支援内容を見る執筆
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