インドネシア新版OSS-RBAシステムとそのビジネスへの影響
OSS-RBAは、インドネシア政府が2021年に導入した事業許認可のオンライン申請システムです。事業を低・中・高のリスク区分に分類し、区分ごとに必要な許認可を定めることで、手続きの簡素化と透明性の向上を図っています。仕組みと外資規制との関係、日本企業が進出・M&Aで確認すべき点を整理します。

この記事の要点
- 1OSS-RBAは政令2021年第5号に基づき全KBLIコードをリスク分類し、区分ごとに必要な許認可を定める。
- 2低リスクはNIBのみ、中リスクはNIBと標準証明書、高リスクは個別の営業許可と追加許可が必要。
- 3OSS-RBA上で事業分野ごとの外資出資上限と資本金要件が表示され、事前に規制を把握できる。
- 42021年の大統領令第10号で原則100%外資が可能になったが、零細事業・物流・メディア・金融に制限が残る。
- 5買収では対象企業のNIBの登録事業と実態の一致、中リスク事業の自己申告基準の維持を確認する。
本記事は2023年7月時点の情報に基づきます。
OSS-RBA(オンライン・シングル・サブミッション−リスクベース・アプローチ)は、インドネシア政府が2021年に導入した事業許認可のオンライン申請システムです。事業をリスク区分に分類し、区分ごとに必要な許認可を定めることで、手続きの簡素化と透明性の向上を図っています。本記事では、OSS-RBAの仕組み、外資規制との関係、そして日本企業の進出・M&Aにおける確認事項を整理します。
OSS-RBAとは
OSS-RBAは、事業のリスクに基づいて許認可手続きを行う仕組みです。名称のとおり「リスク・ベース」のアプローチを採用し、設立する会社の事業活動を低リスク・中リスク・高リスクに分類します。それぞれのリスクレベルに応じて、必要な許認可の種類や監督の内容・頻度が決まります。
このリスクに応じた許認可管理により、従来のOSSよりも申請手続きが簡素化され、迅速化が図られています。

旧OSSからの変更点
オンラインの事業許認可システムとしては、2018年に旧OSS(OSS 1.1)が初めて導入されました。2021年8月、投資環境の改善と行政手続の簡素化を目的に、雇用創出法(オムニバス法)施行の一環として、新バージョンであるOSS-RBAが正式に開始されました。
旧OSSは、事業許可取得後に追加条件を履行する「コミットメント型」でした。新OSS-RBAでは、事業のリスク区分ごとに必要な手続きが事前に定められている点が大きな違いです。リスク評価に基づき許認可要件が最初から明確化され、事業の種類によって必要な申請プロセスが異なる仕組みになっています。
OSS-RBAは各官庁の許認可情報を一元化し、ワンストップで手続きを可能にするシステムです。企業は一つのオンラインプラットフォーム上で、事業登録から許可申請まで完結できます。
リスク区分ごとの許認可プロセス
政府は政令2021年第5号(PP 5/2021)により、すべての事業分野(KBLIコード)についてリスク分類を定めています。リスク区分は「低」「中」「高」の3段階(実務上は中リスクが高・低に細分化)に分かれ、区分ごとに手続きが異なります。
| リスク区分 | 必要な許認可 | 特徴 |
|---|---|---|
| 低リスク | NIBのみ | NIBが営業許可を兼ねる。追加の許可申請なしで事業を開始できる |
| 中リスク | NIB+標準証明書 | 業種ごとの標準への適合を自己申告し、自動発行される標準証明書を取得する |
| 高リスク | NIB+個別の営業許可(izin) | 関係官庁の許可が必要。環境影響評価や建築許可など複数の追加許可を求められることが多い |
低リスク事業
事業者番号(NIB)の取得のみで事業を開始できます。

NIBは営業許可を兼ねた事業者固有の番号で、低リスク分野では追加の許可申請をせずに事業を始められます。
中リスク事業
NIBに加えて、一定の基準への適合が求められます。各業種ごとに定められた標準への適合を自己申告し、自動発行される「標準証明書」を取得する必要があります。登録後に所定の技術的・運用上の条件を満たすことで、正式に事業継続が認められる仕組みです。
高リスク事業
厳格な許認可の取得が必要です。NIB取得後、関係官庁から個別の営業許可(izin)を取得しなければ事業を開始できません。環境影響評価や建築許可など複数の追加許可・承認が求められるケースも多く、当局による詳細な審査や現地調査が行われるため、他の区分に比べ手続き期間が長くなります。
M&Aの判断に効くのは、対象企業の事業がどの区分に属するかで「買収後に引き継ぐ許認可の重さ」が決まる点です。高リスク区分の企業では、許可の有効性と更新条件が事業継続の前提となるため、デューデリジェンスの重点項目になります。
OSS-RBAの利点
許認可手続きの迅速化
リスク分類に応じた許可発行により、低リスク事業ではNIB取得のみで事業を開始できるようになりました。従来はすべての業種で種々の許可取得が必要でしたが、リスクの低い分野では手続きが大幅に簡略化されています。事業開始までの時間が短縮され、小規模事業やリスクの低いサービス業にとって参入のハードルが下がりました。
透明性・予見性の向上
オンラインシステム上で、事業分類ごとに必要な手続きや提出書類が明確に案内されます。許認可処理の標準的なタイムライン(所要日数の目安)も設定されており、申請者はどのくらいで許可が下りるか見通しを立てやすくなりました。申請後の不透明な待ち時間や追加要求のリスクが減り、行政手続きの公平性・一貫性の向上が期待されています。
外資企業にとっての利点
OSS-RBAでは、事業分野ごとに適用される外資出資比率の制限や必要資本金要件が自動的に表示されます。日本企業を含む外国投資家は、参入予定分野の出資規制や必要な許可条件を事前に把握できます。
例えば、ある業種で外資出資上限が49%と定められている場合、その情報がOSS-RBA上で明示されます。「知らずに進出したら外資比率超過で事業許可が下りない」というリスクを減らせる点は、事業計画策定の段階で大きな安心材料です。
外資規制との関係
インドネシアは従来、投資分野ごとに外資参入の可否を定めたネガティブリスト制度を採用しており、多くの分野で外資比率の上限や禁止業種が存在していました。

2021年に施行された大統領令第10号(ポジティブリスト)によりネガティブリストは大幅に緩和され、原則すべての業種が外資に開放(100%出資可能)されました。ただし、国内中小企業(UMKM)の保護や国家戦略上重要な分野では、依然として外資参入が制限されています。
| 分野 | 外資に対する制限(2023年時点の公開情報) |
|---|---|
| 小規模小売、屋台、伝統工芸などの零細事業 | 外資では事業許可が下りず、地元資本に限定 |
| 国内通信、輸送(海運・航空)、物流(クーリエ) | 外資出資比率は49%まで |
| メディア(テレビ・ラジオ放送など) | 新規参入時は外資不可。既存会社への増資でも最大20%まで |
| 金融業(銀行・保険など) | 別途法律で監督され、当局(OJK)の許可や資本要件など特有の制限がある |
進出しやすくなった業種
2021年のポジティブリストにより、通信、情報技術、運輸、エネルギー、流通(卸売・小売の一部)、建設サービスなど多くの分野で外資規制が撤廃・緩和されました。
- 通信(電気通信):以前は外資出資比率の上限がありましたが、100%外資が可能となり、通信インフラやITサービスへの参入機会が広がりました。
- エネルギー:再生可能エネルギー事業が優先分野に指定され、外資100%での発電プロジェクトも許可されるようになりました。
- 流通・小売:ミニマート(小規模小売)を除き、大規模小売店への出資規制が緩和され、外国小売企業がチェーン展開しやすくなりました。
- インフラ・建設:高度技術を伴う大型プロジェクトへの外資参入制限が緩和され、日本の建設・不動産企業の新規案件参画の門戸が広がりました。
製造業からサービス業まで多数の業種で進出環境が改善され、OSS-RBAによる迅速な許認可取得と相まって、事業展開が容易になっています。
M&Aにおける確認事項
OSS-RBAは新規設立だけでなく、既存企業の買収にも直接関わります。対象企業の許認可はOSS上に記録されており、その内容が事業実態と一致しているかが基礎的な確認事項です。
日本企業が確認すべきこと
- 対象企業のNIBに登録されたKBLIコードが、実際の全事業を網羅しているか。
- 各事業のリスク区分と、それに応じた許可(標準証明書、営業許可)が有効か。
- 高リスク事業の場合、環境影響評価や建築許可などの追加許可が現況の設備・操業と整合しているか。
- 買収後の株主構成が、各事業の外資出資上限に収まるか。
見落としやすいのは、中リスク事業の「自己申告」の扱いです。標準証明書は自動発行されるため取得は容易ですが、申告した基準を実態として満たしていなければ、当局の監督時に是正を求められます。買収後に発覚すると、買い手が是正コストを負うことになります。
また、外資100%が可能な業種であっても、対象企業が営む複数事業の中に制限業種が含まれている場合、その事業だけ株主構成の要件が異なります。事業ごとの外資上限を個別に確認する必要があります。
検討にあたっての論点
- 進出予定の事業のKBLIコードとリスク区分を特定し、必要な許可と所要期間を把握しているか。
- 外資100%が可能な区分か、49%や20%といった上限のある区分か。複数事業の場合、事業ごとに確認したか。
- 買収候補の許認可はOSS上の記録と実態が一致しているか。中リスク事業の自己申告基準は維持されているか。
- 高リスク事業の追加許可(環境・建築)を、デューデリジェンスの重点項目にしているか。
- 制限業種が残る金融・物流・メディア分野で、適法なスキーム(合弁など)を検討しているか。
本記事の数値・制度は2023年7月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。
日本企業への示唆
OSS-RBAは日本企業にとって、進出前に必要な許可と外資規制を自ら確認できる仕組みです。一方で、許認可がオンラインで一元化されたことで、対象企業の登録内容と事業実態のずれが買収後に表面化しやすくなりました。
- 進出予定事業のリスク区分を特定し、区分に応じた許可の取得期間を事業計画に織り込む。
- 複数事業を営む場合は、事業ごとに外資出資上限を確認し、株主構成を設計する。
- 買収では、NIBの登録事業、標準証明書の自己申告内容、高リスク事業の追加許可を実態と照合する。
検討前に確認したいこと
- 1進出予定の事業のKBLIコードとリスク区分を特定し、必要な許可と所要期間を把握しているか。
- 2外資100%が可能な区分か、49%や20%といった上限のある区分か。複数事業の場合、事業ごとに確認したか。
- 3買収候補の許認可はOSS上の記録と実態が一致しているか。中リスク事業の自己申告基準は維持されているか。
- 4高リスク事業の追加許可(環境・建築)を、デューデリジェンスの重点項目にしているか。
- 5制限業種が残る金融・物流・メディア分野で、適法なスキーム(合弁など)を検討しているか。
執筆
ReDelta Insights編集部
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