今こそ知りたい──ベトナム技能実習マーケット完全ガイド
日本の現場系3業種は2030年に419万人の人手不足が見込まれ、技能実習生の受け入れは拡大を続けています。その約半数を占めるベトナムは、年間送出人数122,010人、送出機関453社という巨大市場です。本稿は市場規模、前渡航学校から受入企業までの5レイヤー、送り出し機関の規制と費用上限を整理します。

この記事の要点
- 12024年末の在留技能実習生は457,074人と10年前の3倍、2027年に育成就労制度へ移行する
- 2ベトナムの年間送出人数は122,010人、送出機関453社、前渡航コストは約68万円/人
- 3送出機関は外資比率0%で株式取得不可、前渡航学校は100%外資可
- 4送出機関は2億VNDのデポジット義務があり、手数料上限は基本給の最大3か月分
- 5VAMASの格付けとDOLAB/VAMASの失踪率レポートが送出機関の品質判定に使える
本記事は2025年9月時点の情報に基づきます。
日本の現場系産業では人手不足が深刻化し、技能実習生の受け入れが拡大しています。送り出し国として最大のシェアを持つベトナムは、年間12万人超を送り出す巨大市場です。本稿では市場規模、関係プレイヤーの構造、送り出し機関の規制と費用の仕組みを整理します。
日本で技能実習生が増える背景
日本の製造・建設・介護など現場系3業種は、2030年に419万人、2040年には674万人の人手が不足すると経済産業省が試算しています。国内だけでは労働力を確保できないため、外国人材、とりわけ技能実習生の受け入れが拡大し続けています。
2024年末時点の在留技能実習生は457,074人と、10年前と比べて3倍です。2027年には現行制度が「育成就労制度」に切り替わり、転籍容認や企業費用負担の拡大が予定されています。制度による追い風が、受け入れ拡大に拍車を掛けています。
なぜ今ベトナムなのか
5つの雇用メリット

- 賃金ギャップが大きい:ホーチミン都市部の平均月収は約50,000円〜約60,000円。一方、日本の最低賃金フルタイム換算は180,000円前後です。約4倍の賃金差が家計を支える「稼得力」になり、応募を後押しします。
- 勤勉で定着率が高い:ベトナムは仏教・キリスト教が中心で、宗教行事による長期欠勤が少なく、日本企業と労働慣行が近い点も評価されています。
- 理工系人材が豊富:STEM系大学の卒業者は毎年30万人超。自動化やITに強い若手が多く、機械・金属加工、エレクトロニクス分野では即戦力が見込めます。
- 政府が外貨政策として後押し:海外送金はベトナムGDPの3.2%を占める重要な外貨源。労働省(MOLISA)は送り出し機関の格付けや手数料上限を整備し、輸出産業として育成しています。
- 日本語学習ブーム:国内の日本語学習者は16万人超。前渡航学校ではN4取得率80%以上が普通で、「日本で働く」ことが具体的なキャリアパスになっています。
これらのメリットは、送り出し側の事業としての安定性にもつながります。賃金差と政府の後押しが続く限り応募者の供給は厚く、前渡航学校や送り出し機関の稼働は見込みやすい構造です。
市場規模を数字で読む
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 年間送出人数 | 122,010人 |
| 送出機関数 | 453社(参考:OTIT) |
| 平均前渡航コスト | 68万円/人(学費・寮費・手数料・講習費) |
ベトナム人技能実習生の業種別分布
ベトナムからの技能実習生は、建設関係(24.2%)と食品製造関係(21.6%)で全体の約半数を占めており、次いで機械・金属関係(16.3%)が続きます。農業(6.8%)や繊維・衣類(5.0%)など幅広い分野で活躍しており、日本の人手不足解消に重要な役割を果たしています。
5つのレイヤーと主要プレイヤー
ベトナムから日本への送り出しは、前渡航学校から受入企業まで5つのレイヤーで構成されています。各レイヤーで想定粗利と外資規制が異なるため、日本企業がどこに関与するかで参入方法が変わります。
| レイヤー | 主な役割 | 代表プレイヤー・概要 | 想定粗利 | 外資規制 |
|---|---|---|---|---|
| ① 前渡航学校 | 日本語・安全衛生・基礎技能(120〜360h) | Kaizen Yoshida School(HCM):建設・製造・介護の総合校、年1,800名 | 25–35% | 100%外資可 |
| ② 送出機関 | 面接手配、ビザ・渡航書類、航空券 | Esuhai Co., Ltd.:VAMAS★5、製造系に強み JVNET JSC:累計2万人送出、日系案件に強み |
40% | 外資比率0%(株式不可) |
| ③ 入国後講習センター | 日本到着後160h座学・生活適応 | アイム・ジャパンTC(千葉ほか):ベトナム語通訳常駐、月1,000名規模 | 20% | 制限なし |
| ④ 監理支援機関(日本側) | 実習計画・監査・生活指導 | 中小企業絆交流協同組合:優良認定、ベトナム比率60% | 25% | 非営利だが事業譲渡可 |
| ⑤ 受入企業 | OJT・労務管理・賃金支払 | 各種メーカー・建設会社・介護事業者 | 本業依存 | 制限なし |
事業として関与する場合、送出機関は外資比率0%で株式取得ができないため、前渡航学校(100%外資可)や日本側の入国後講習・監理支援が現実的な入口になります。監理支援機関は非営利ですが事業譲渡は可能で、優良認定の有無が受入企業からの評価を左右します。
技能実習・特定技能と送り出し機関の仕組み
ベトナムから日本に来る技能実習生や特定技能人材は、どのような学校や機関を経て渡航するのでしょうか。ここでは、前渡航学校と送り出し機関の役割や関係性、規制や費用の仕組みを整理します。
職業訓練学校(前渡航学校)とは

ベトナムの職業訓練学校(前渡航学校)は、日本で働くことを希望するベトナム人に対し、必要とされる技能や日本語能力を身につけるための教育を提供する施設です。主な役割は日本語教育、安全衛生教育、基礎技能訓練などで、通常120〜360時間ほどの講習を行います。
職業訓練校は法人組織が中心ですが、財団や個人が運営するケースもあります。日本語学校と混同されることもありますが、法的な位置付けが異なり、あくまで職業訓練や実務研修を中心に据えた施設です。
ベトナムの場合、職業訓練校自体は人材紹介や送り出し業務を直接行いません。研修修了後は、正式にライセンスを受けた送り出し機関へと人材を引き継ぐ流れが一般的です。ただし、職業訓練校が送り出し機関と一体運営されていることも多く、同じ運営主体が送り出し業務も手掛けている場合があります。
送り出し機関とは

送り出し機関とは、日本の技能実習制度に基づき、ベトナムから日本へ実習生を派遣するために設立された公認の機関です。主な役割は実習生の募集や選考、日本の受け入れ企業や監理団体への紹介、ビザ取得、渡航手続きの代行などです。
ベトナム政府(労働傷病兵社会省:MOLISA)が送り出し機関をライセンス制で管理しており、2024年時点では約440の送り出し機関が正式認可を受けています。実習生が支払う手数料についても法律により上限が定められており、送り出し機関が徴収できる額は、1年契約で最大1か月分の給与、3年以上の契約で最大3か月分の給与までです。
前渡航学校と送り出し機関の関係性

前渡航学校と送り出し機関は密接な協力関係にあります。前渡航学校は実習生候補者が日本へ渡航するために必要なスキルを身につける場であり、送り出し機関はその候補者たちを日本の監理団体や受け入れ企業へとつなぐ役割を果たしています。
実務上は、前渡航学校が送り出し機関の傘下や系列企業として運営されていることが多く、両者が一体となって「技能実習生の募集から日本への送り出しまで」を提供しています。この一貫体制により、送り出し機関は安定的に実習生候補者を確保し、日本側への人材供給を円滑に行えます。
特定技能制度における送り出し機関の位置付け

日本の特定技能制度に関しては、ベトナム人労働者は必ずしも送り出し機関を通す必要はありません。制度上は個人が直接日本の求人に応募できますが、実務上、個人が単独で書類準備、面接、渡航手続きを完結させることは困難なため、特定技能制度向けの送り出し機関も多く存在します。
ベトナムでは、送り出し機関が技能実習制度だけでなく特定技能制度にも対応しているケースが多く、実習生も特定技能労働者も送り出し機関を通じて渡航準備を行うことが一般的です。
ベトナム独自ルール:送り出し契約から費用上限まで
ベトナムでは、改正「派遣契約によるベトナム人労働者海外派遣法」と関連政省令により、技能実習生の送り出しに関する細かな基準が定められています。
デポジット制度
送り出し機関は2億VND(2025年8月時点で約112万円)を銀行にデポジットする義務があります。残高不足はライセンス停止リスクのシグナルです。
VAMASによる認定・格付け制度
業界団体VAMAS(ベトナム海外労働者派遣協会)はILO(国際労働機関)やIOM(国際移住機関)と協力し、送り出し機関向け「行動規範(CoC-VN)」を策定し、その遵守状況を毎年評価してランキングを発表しています。評価は星の数で表され、行動規範順守が特に優れた機関には5つ星、継続的な高評価実績に対し6つ星が与えられます。
費用レンジと判定基準
| 項目 | 合法ゾーン | 警戒ゾーン | チェック方法 |
|---|---|---|---|
| 前渡航費用 | 25〜60万円 | 80〜100万円 | 内訳に「保証金」「教材費」の過剰計上が無いか |
| 手数料率 | 賃金1〜3か月分 | 上限超過 | 労働契約書と照合 |
| デポジット残高 | 満額2億VND | 不足・未積立 | 銀行残高証明を確認 |
| 失踪率 | 1%未満 | 1%超 | DOLAB/VAMASレポート |
2022年施行の法改正
新法により送り出し機関の仲介費用上限が「就業先賃金の3か月分まで」に厳格化され、来日前の経済負担が軽減されました。日本側からの「送り出し管理費」(月額5,000円程度)も負担軽減要因となり、技能実習希望者が大幅に増加しました。
送り出しルール一覧表
下記は実務で頻出するポイントを整理したものです。
| 項目 | 詳細内容 | 備考・注意点 |
|---|---|---|
| 送り出し機関との契約数 | 上限なし(2022年3月3日付DOLAB通知により撤廃) | 複数の優良機関を同時に使い分け可能、調達リスクの分散が容易 |
| 住宅費控除 | 月給の15%以下 | 超過すると違法控除とみなされ、ライセンス停止や損害賠償の対象 |
| 講習期間中の手当 | 食事無償提供付き:月3万円以上 | 食事の有無で金額が変わる点が実務上の盲点 |
| 送り出し管理費 | 1人あたり月5,000円(法定ミニマム) | 値下げし過ぎると送り出し機関のサポート品質が低下 |
| ベトナム事前講習費 | ・標準160時間コース:最低1万5,000円/人 ・介護職種:10万円以上(追加日本語研修込み) |
介護職種は追加で日本語研修が必須 |
| 技能実習生から徴収できる手数料上限 | ・1年契約:基本給の1か月分以下 ・3年以上の契約:基本給の最大3か月分以下 |
給与総額ではなく「基本給ベース」で計算。受入企業負担分は差し引いて再計算 |
| 旅費・交通費負担 | ・往復航空券:受入企業(または監理団体)負担 ・宿泊施設から職場までの交通費:受入側負担 |
全面的に受入側の負担 |
受け入れ企業側はこれらの点を契約書に明示しておかないと、実習生本人が立て替えた際に違法徴収とみなされる恐れがあります。上記7項目をチェックリスト化しておくと、手続きミスや費用トラブルを未然に防止できます。特に住宅費控除や講習手当の下限などは監査で指摘を受けやすいため、社内規程・給与計算システムにあらかじめ反映しておくことが肝要です。
まとめ

ベトナム技能実習マーケットは、日本の深刻な労働力不足を背景に急成長を続けており、年間12万人超の送り出し規模で技能実習生全体の約半数を占める巨大市場です。2027年の育成就労制度移行により、さらなる拡大が見込まれています。
一方で、送り出し機関の品質格差や費用負担、制度運用の透明性といった課題も残されています。企業にとっては「量」だけでなく「質」を見極めたパートナー選びが、ますます重要になります。
見落としやすい点は次の3つです。
- 手数料上限は給与総額ではなく基本給ベースで計算され、受入企業負担分を差し引いて再計算する必要がある。
- 講習期間中の手当は、食事提供の有無で下限が変わる。
- 送り出し管理費を値下げし過ぎると、送り出し機関のサポート品質が低下する。
検討にあたっての論点
- 自社が関与したいレイヤーは、外資100%可の前渡航学校か、株式取得ができない送出機関か、日本側の講習・監理支援か。
- 候補の送出機関について、VAMAS格付け・デポジット残高・失踪率を確認したか。
- 手数料率、住宅費控除、講習手当など7項目を契約書と社内規程に反映しているか。
- 2027年の育成就労制度移行に伴う転籍容認と企業費用負担の拡大を、採用計画と投資回収にどう織り込むか。
本記事の数値・制度は2025年9月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。
日本企業への示唆
ベトナムの技能実習マーケットは、日本の人手不足を背景に成長する一方、送出機関の品質格差と費用負担の透明性が課題です。日本企業は受入企業としてだけでなく、事業として関与するレイヤーを選ぶ際に外資規制を踏まえる必要があります。
- 関与レイヤーの選択:送出機関は外資比率0%のため、前渡航学校(100%外資可)や日本側の講習・監理支援が現実的な入口になる。
- パートナー選定:VAMAS格付け、デポジット残高、失踪率など公開指標で送出機関の品質を見極める。
- 制度変更への備え:2027年の育成就労制度移行に伴う転籍容認と費用負担拡大を計画に織り込む。
検討前に確認したいこと
- 1自社が関与したいレイヤーは、外資100%可の前渡航学校か、株式取得ができない送出機関か、日本側の講習・監理支援か。
- 2候補の送出機関について、VAMAS格付け・デポジット残高・失踪率を確認したか。
- 3手数料率、住宅費控除、講習手当など7項目を契約書と社内規程に反映しているか。
- 42027年の育成就労制度移行に伴う転籍容認と企業費用負担の拡大を、採用計画と投資回収にどう織り込むか。
執筆
ReDelta Insights編集部
ReDelta Insights Editorial
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