3億人の超巨大小売市場へ挑む日本企業の挑戦とその事例

インドネシアの小売業は、2021年のポジティブリスト導入で外資100%投資が可能になり、参入が加速しています。ニトリの出店、エニマインドのEC企業買収、イオンモールの多店舗展開に加え、IKEA、Unilever、Lottemartなど海外勢の動きを整理し、日本企業が参入形態を選ぶ際の視点を示します。

ReDelta Insights編集部公開 更新
3億人の超巨大小売市場へ挑む日本企業の挑戦とその事例

この記事の要点

  • 12007年のネガティブリストで制限されていた小売業は、2021年のポジティブリストで外資100%投資が可能になりました。
  • 2ニトリは2024年7月にインドネシア初出店し、2032年までに80店舗の展開計画を公表しています。
  • 3エニマインドは2023年5月にEC支援企業DDIを完全子会社化し、買収による参入を選びました。
  • 4イオンモールは2022年の初出店以降、2025年までに合計10店舗を目指しています。
  • 5自前出店、買収、提携のいずれを選ぶかで、必要な現地機能と時間軸が大きく変わります。

本記事は2024年10月時点の情報に基づきます。

インドネシアは長年、国内産業を守るために外資による参入を規制してきました。これは経済成長期の各国に共通する現象で、日本も戦後、高い関税や輸入制限で国内の農業を保護してきました。

2007年に導入された「ネガティブリスト」は、特定の産業における外資企業の株式100%取得を禁止し、国内の中小企業や戦略的産業を保護してきました。小売業もこのリストに含まれ、外資企業の自由な市場参入は制限されていました。

転機は2021年、ジョコ・ウィドド政権下で「ポジティブリスト」が導入されたことです。小売業を含む多くの産業が外資に開放され、小売業でも外資による100%投資が可能になりました。2024年現在、インドネシアには多くの外資企業が進出し、小売業を中心に事業を拡大しています。本記事では、どのような企業がどのような戦略で参入しているのかを事例で整理し、日本企業が参入形態を選ぶ際の視点を示します。

日本の小売企業のインドネシア進出

日本企業の参入は、自前で店舗を出す形、現地企業を買収する形、商業施設として面を取る形と、企業ごとに異なります。3社の事例を順に見ていきます。

ニトリホールディングス:自前出店で東南アジアを面展開

日本を代表する家具メーカーのニトリホールディングスは、2024年7月25日にインドネシア初の店舗をオープンしました。この進出は東南アジア全体への事業拡大の一環で、2021年にマレーシア、2022年にシンガポール、2023年にベトナムで事業を開始しています。

進出の主な理由は、インドネシアの加速する経済成長と中間層の拡大です。ニトリは、消費者層が増加するなかで手頃な価格で高品質な家具を提供し、現地のニーズに応えることを目指しています。

ニトリは2032年までに80店舗を展開する計画を発表しています。急成長する市場に対応しつつ、早期に強固な流通基盤を築くための戦略です。自前出店は自社の商品と店舗運営の型をそのまま持ち込める一方、物流や用地の確保を自力で進める必要があります。

エニマインドグループ:EC支援企業の買収で参入

エニマインドグループは、インドネシアのEC市場への進出をM&Aで進めました。2023年5月、インドネシアに拠点を置くEC支援企業PT Digital Distribusi Indonesia(DDI)の株式を100%取得し、完全子会社化しました。DDIは電子商取引の戦略策定や運営支援、倉庫・物流管理、ストア運営、マーケティング、カスタマーサービスなど幅広いサービスを提供する企業です。

期待されるシナジーは二つあります。第一に、DDIがインドネシア市場で蓄積したノウハウを活用し、エニマインドのEC事業全体を強化することです。第二に、DDIのデータをエニマインドのプラットフォームに統合し、データ主導のマーケティングと運営の最適化を図ることです。

買収による参入は、現地の顧客基盤や運営体制を短期間で獲得できる点が強みです。一方で、買収後にデータやシステムを自社基盤へ統合できるかどうかが、想定したシナジーを実現できるかを左右します。

イオンモール:商業施設として面を取る

イオンモールは2022年にインドネシアで初出店して以来、着実に店舗網を拡大しています。直近では2024年3月22日にジャカルタ近郊のデルタマスに5号店をオープンしました。デルタマス店は最新の商業施設技術とローカルのニーズに応じた商品構成を取り入れ、買い物客に新しい体験を提供しています。

イオンモールは2025年までにジャカルタとその周辺地域にさらに5店舗を追加し、合計10店舗の展開を目指しています。急成長する中間層と都市化の進展に応じた消費需要を取り込み、地元経済にも貢献することを狙っています。

商業施設の展開は、テナントとして入居する日本の小売・外食企業にとっても参入の受け皿になります。用地取得と開発に長い時間がかかるため、参入の時間軸は最も長い形態です。

海外の小売企業のインドネシア進出

日本以外の海外企業も、それぞれ異なる戦略でインドネシア市場に取り組んでいます。

IKEA(スウェーデン)

家具大手IKEAは、急成長する中間層と家具需要の増加に対応するため、積極的に店舗展開を行っています。2022年には都市部に7号店を開設しました。エコフレンドリーな家具の販売を進め、持続可能な製品を通じて環境意識の高いライフスタイルを提案し、環境問題への関心が高い消費者層から支持を得ています。

急速な都市化とともに住宅需要が増加しており、手頃な価格で高品質な家具を提供するIKEAは多くの家庭にとって魅力的な選択肢となっています。成長戦略にはオンラインショッピングの利便性向上のためのデジタルプラットフォーム拡充も含まれています。

Unilever(イギリス)

Unileverは、インドネシア市場でのデジタル小売プラットフォーム拡充に注力し、現地のEC専門企業と提携してパーソナルケアや家庭用品の需要に対応しています。この連携により、パーソナライズされた商品提供や迅速な配送が実現されています。

さらに、国民の所得増加に伴い「プレミアム化推進」戦略を掲げ、食器用洗剤やスキンケアといったカテゴリーで高付加価値の商品を提供することで成長を図っています。

Hapimart(中国)

中国の小売チェーンHapimartは、2024年3月にジャカルタのローカルショッピングモールITC Cempaka Masに4号店をオープンしました。今後もインドネシアの主要都市での店舗展開を加速させ、オンライン事業とのシナジーを活かして競争優位を確立することを目指しています。

Lottemart(韓国)

韓国の小売大手Lottemartは、物理店舗とオンライン事業の両方を拡大し、両者を統合した「クリック&コレクト」サービスを展開しています。消費者はオンラインで商品を注文し、同日に近隣の店舗で受け取ることができます。

Lottemartは食品、日用品、家電製品など幅広い商品を提供しています。インドネシアの消費者は利便性を求める傾向が強くなっており、クリック&コレクトはその期待に応える形で成果を上げています。

参入形態の比較

事例を参入形態で整理すると、次のようになります。

参入形態 事例 強み 留意点
自前出店 ニトリ、IKEA、Hapimart 自社の商品・運営の型をそのまま持ち込める 用地、物流、人材を自力で確保する必要があり、立ち上げに時間がかかる
現地企業の買収 エニマインド(DDI) 顧客基盤、運営体制、データを短期間で獲得できる 統合後にシステム・データ・人材を自社基盤へ取り込めるかが成否を分ける
現地企業との提携 Unilever(EC企業と提携) 投資を抑えつつ現地チャネルを活用できる 主導権と収益配分の設計が必要
商業施設の開発 イオンモール 面を取り、テナントの受け皿にもなる 開発期間が最も長く、投資規模も大きい

日本企業が確認すべきこと

インドネシアの小売業は、人口ボーナスに基づく国内消費の増加と中間層の拡大により、新たな成長フェーズに入っています。都市化と若年層の増加が消費パターンや購買行動を変え、新型コロナウイルスのパンデミックを経てオンラインショッピングの需要も高まりました。日本企業も参入を始めていますが、市場で主導的な地位を築いている企業はまだ少数です。

参入を検討する際には、次の点を確認しておきたいところです。

  • 自社の事業区分がポジティブリスト上で外資100%投資の対象か。付随する物流や卸の区分はどうか。
  • 自社に不足しているのは、用地・店舗、物流、商品調達、顧客基盤のどれか。
  • 買収を選ぶ場合、対象企業の売上がどのチャネル(店舗・EC・卸)と顧客層に支えられているか。
  • 買収後に対象企業のシステム・データ・人材を自社基盤へ統合する計画と体制があるか。
  • 店舗とオンラインを統合した運営(クリック&コレクトなど)に対応できるか。

見落としやすいのは、規制上「参入できる」ことと、実際に「収益を上げられる」ことの間の距離です。物流や商品調達の現地機能をどう確保するかが、参入形態の選択とセットで検討されるべき論点です。

検討にあたっての論点

  • 自社の小売事業は、ポジティブリスト上で外資100%投資が可能な区分に該当するか。
  • 自前出店、買収、提携、商業施設のうち、自社の時間軸と不足機能に最も合う参入形態はどれか。
  • 買収を選ぶなら、対象企業のチャネル構成と顧客層は、自社の商品と価格帯に合っているか。
  • 商品調達、物流、店舗運営のうち、現地で自前で持つ機能と外部に委ねる機能をどう分けるか。
  • 都市部の中間層に加え、オンライン需要の伸びをどの体制で取り込むか。

本記事の数値・制度は2024年10月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。

日本企業への示唆

規制緩和で参入の門戸は開きましたが、事例が示すとおり参入形態は一様ではありません。自前出店は自社の世界観を守れる一方で立ち上げに時間がかかり、買収は販路や運営ノウハウを短期間で得られる一方で統合の負担が伴います。自社に不足する現地機能と許容できる時間軸から形態を選ぶことが出発点です。

  • 参入形態の選択:出店、買収、提携を、時間軸と不足機能の観点で比較する。
  • 対象企業の評価:販売チャネル、顧客層、物流の実態が自社の商品・価格帯に合うかを確認する。
  • オンライン対応:店舗とECを統合した運営(クリック&コレクトなど)への対応力を見極める。

検討前に確認したいこと

  • 1自社の小売事業は、ポジティブリスト上で外資100%投資が可能な区分に該当するか。
  • 2自前出店、現地企業の買収、提携のうち、自社の時間軸と現地機能の不足を最も埋められる形態はどれか。
  • 3対象企業の販売チャネル(店舗・EC・卸)と顧客層は、自社の商品と価格帯に合っているか。
  • 4商品調達、物流、店舗運営のうち、現地で自前で持つ機能と外部に委ねる機能をどう分けるか。
  • 5都市部の中間層に加え、オンライン需要の伸びを取り込む体制が対象企業にあるか。

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