【インドネシア】進出時の外資規制について徹底解説
インドネシアは2020年のオムニバス法と2021年の大統領令第10号により、ネガティブリストを撤廃してポジティブリストへ移行しました。小売、物流、医療、インフラなど多くの分野で外資100%出資が可能になった一方、国内運輸、メディア、建設、保険などには出資上限が残ります。進出方法の判断に直結する規制の全体像を整理します。

この記事の要点
- 12021年の大統領令第10号でネガティブリストが撤廃され、原則すべての分野で外資100%出資が可能になった。
- 2ポジティブリストは優先(約245〜246)、特定条件付き(約46)、中小企業協業義務(約51)、全面開放の4区分。
- 3小売、EC、物流、病院、通信、エネルギーなど、従来67%や49%の上限があった分野が外資100%に開放された。
- 4国内海運・航空・宅配は49%、建設は67%(ASEAN70%)、保険は80%など、出資上限が残る業種がある。
- 5メディアは設立時内資100%、増資時に外資49%まで。放送は拡張時でも外資20%までと厳格。
本記事は2023年7月時点の情報に基づきます。
インドネシアでは、外国企業の参入を制限する「外資規制」が長年存在し、特に一部の業種では外国資本の出資比率に上限が定められてきました。しかし2021年のポジティブリスト導入により、多くの分野で外資100%出資が可能になり、参入障壁は大きく下がっています。
本記事では、規制緩和の経緯、ポジティブリストの仕組み、外資100%が可能になった業種、制限が残る業種を整理し、日本企業が進出方法を検討する際の論点をまとめます。
外資規制の背景と最近の変化
以前は「ネガティブリスト」と呼ばれる規制対象業種の一覧が定められ、リストに掲載された業種では外資100%での進出が認められなかったり、一定割合までしか出資できない仕組みになっていました。
しかし近年、インドネシア政府は投資環境の改善に乗り出し、大規模な規制緩和を実施しました。2020年11月に「雇用創出のためのオムニバス法」が成立し、それに基づく2021年の大統領令(第10号)によって、旧ネガティブリストでの外資出資制限の大部分が撤廃されました。この改革により、従来は外資比率の上限があった多くの分野が解放され、原則として外国資本による100%出資が可能となりました。1980年代にネガティブリスト制度が導入されて以来、最大規模の自由化とも評されています。
こうした制度変更に伴い、2021年には「ポジティブリスト」方式が導入されました。ポジティブリストとは、従来の「外資参入が制限される業種リスト」とは逆に、基本的にすべての業種を外資に開放しつつ、例外的に制限が課される業種を分類・列挙する方式です。「特定の制限がある場合を除き、原則としてすべての事業分野で外資100%出資が可能」という考え方への転換であり、海外からの投資誘致を促進する姿勢を明確にしたものです。

ポジティブリストの仕組み
ポジティブリストでは、事業分野が次の4つのカテゴリーに分類されています。
| 区分 | 概要 | 対象分野数 |
|---|---|---|
| 優先分野 | 国家戦略上重要な分野。税制・非税制の優遇措置あり | 約245〜246 |
| 特定条件付き分野 | 参入可能だが、追加条件や出資上限が課される | 約46 |
| 中小企業・協同組合との協業義務分野 | 大企業の参入時に現地中小企業との協業が必須 | 約51 |
| 外資に全面開放された分野 | 上記以外のすべて。外資100%が無条件に可能 | ― |
優先分野
インドネシアの国家戦略上重要と位置づけられる分野で、労働集約的・資本集約的であったり、国家プロジェクトに関連したり、輸出志向型や先端技術を伴う産業などが該当し、約245〜246の事業分野が指定されています。
これらの分野に投資する企業には、法人税の減免や免税措置、インフラ提供、許認可手続の簡素化といった税制・非税制上の優遇措置が与えられます。たとえば、一定額以上の大規模投資には5〜20年間の法人税減税(タックスホリデー)が適用されるなど、外資誘致のためのインセンティブが用意されています。
特定条件付き分野
資本は参入できるものの、何らかの追加条件や制限が課される事業分野です。ここには約46の事業ラインが含まれます。条件の例としては、「投資にあたり特別な許認可が必要」「一定の資格や認可を取得しなければならない」など業種固有の要件が課せられるケースや、後述するように外資比率の上限が法律で定められているケースなどがあります。
また、一部の事業はインドネシア人による国内企業に限定されており、外国企業が参入できないものもあります。たとえばアルコール飲料の卸売・小売などは、酒類取締に関する別の法律により厳しい規制下に置かれています。
中小企業・協同組合との協業が義務付けられる分野
一定規模以上の企業(外資を含む大企業)が事業参入する場合に、必ず地元の中小・零細企業(MSME)や協同組合とのパートナーシップを組まなければならないとされる分野で、約51の事業分野が該当します。
具体的には、事業許可申請時に「現地中小企業との協業計画書(パートナーシップ・コミットメント)」をOSSを通じて提出し、中小企業への技術移転や現地調達など協業の具体策を示す必要があります。このカテゴリーは、中小企業の保護・育成と外資との共存を図る目的で設けられており、外資企業単独での市場独占を防ぐ狙いがあります。
外資に全面開放された分野
上記のいずれにも該当しないすべての事業分野がここに分類されます。これらの分野については外国資本による100%出資が無条件に認められ、事実上制限なく外資系企業を設立できる領域となります。ポジティブリスト導入後は、リストに特に制限事項が記載されていない事業については「外資100%での参入が可能」というのが新原則になりました。
進出方法の検討では、自社の事業がどの区分に該当するかで、自社設立が可能か、合弁や協業計画が前提になるかが決まります。区分の判定は業種分類の細部に依存するため、専門家への確認が必要です。
外資100%出資が可能となった主な業種
前述の改革によって、大半の業種で外国企業が100%出資する現地法人(PMA法人)を設立できるようになりました。インドネシア政府が公表した新規制では、約90%以上の事業分野が外資に対して全面開放されたとされています。主な変化は次のとおりです。
| 業種 | 旧制度の上限 | 現在 |
|---|---|---|
| スーパーマーケット(1200平米未満) | 外資参入不可 | 外資100%可 |
| デパート(400〜2000平米) | 外資67% | 外資100%可 |
| EC(電子商取引) | 中小企業との提携が条件 | 外資単独で可 |
| ディストリビューター・倉庫・フォワーディング | 外資67% | 外資100%可 |
| 複合一貫輸送 | 外資49% | 外資100%可 |
| 投資ファイナンス会社・VC | 外資85% | 外資100%可 |
| 広告業 | 外資参入禁止(ASEAN投資家は51%) | 外資100%可 |
| 病院・専門クリニック | 外資67%(ASEAN70%) | 上限撤廃 |
| 通信・運輸・エネルギー・建設サービス | 分野ごとに上限 | 外資100%可(建設は後述の注記あり) |
小売業(流通・商業分野)

かつてインドネシアでは、小規模な小売店(スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど)の外資参入が厳しく制限されていました。たとえば、店舗面積1200平米未満のスーパーマーケット事業は100%インドネシア資本に限られており外国資本は参入不可、400〜2000平米のデパートも外資出資比率最大67%までという上限が課されていました。ポジティブリスト導入後は、これら小売業への外資規制が撤廃され、外資100%での出資が可能となっています。

2023年にはエニマインドグループ株式会社が、インドネシアに拠点を置くEC支援事業企業PT Digital Distribusi Indonesia(DDI)の株式を100%取得し、完全子会社化しています。
同様にインターネット通販・EC(電子商取引)についても、旧制度下では「外資企業は中小企業との提携を条件に参入可能」という間接的な参入しか認められていませんでしたが、現在はこの条件が削除され、外資単独でEC事業を行うことが可能です。これにより、海外の大手EC企業やプラットフォーム企業もインドネシア市場に直接参入しやすくなりました。
流通・物流業

国内のディストリビューター(卸売業者)や倉庫業、貨物フォワーディング業といった物流関連分野も、従来は外資出資比率67%までと制限されていたところ、現在はいずれも外資規制なし(100%外資可)に転換されています。また、複合一貫輸送業(貨物のマルチモーダル輸送)も旧制度では外資49%までに制限されていましたが、これも規制撤廃されました。
これらの変更により、日本や欧米の物流企業がインドネシアで自社拠点を設立し、物流ネットワークを直接運営できるようになっています。インドネシアの流通・物流市場には近年、外資系企業の進出が相次いでおり、競争が活発化していると言われます。
サービス業全般
金融や医療、広告などのサービス分野でも外資規制緩和が進みました。投資ファイナンス会社やベンチャーキャピタルは以前は外資比率85%までの上限がありましたが、現在は100%外資出資が可能です。広告業に至っては、かつて外資参入禁止(インドネシア資本100%のみ、ただしASEAN投資家は最大51%まで)という規制が敷かれていましたが、これも撤廃され外資企業の自由参入が認められました。
ヘルスケア分野では、病院事業や専門クリニックが従来外資出資最大67%(ASEAN資本70%)の枠に制限されていましたが、現在は出資比率の上限規制が撤廃されています。これによって外国資本による病院建設や医療サービス展開が可能となり、インドネシアの医療市場への海外投資が活発化しています。
インフラ・公共サービス関連
通信(電気通信)、交通(運輸)、エネルギー、建設サービスなど、インフラ系の重要分野も大きな変化がありました。2016年の旧ネガティブリストでは、これらの分野は国家戦略上重要であるとして外資比率に厳しい上限が設けられていましたが、ポジティブリストへの移行によりいずれも外資100%での参入が可能となっています。
たとえば、電気通信事業(通信塔の運営等)や旅客・貨物運送事業、発電所などのエネルギー事業、大規模建設プロジェクトの分野で、外国企業が単独出資で子会社を設立し事業を行えるようになりました。これにより、高速通信ネットワークを構築する通信事業者や、大型インフラを受注する建設・エンジニアリング企業などに海外資本が参入しやすくなり、市場競争や技術導入が進むことが期待されています。
外資比率に制限が残る業種
大幅な自由化が進んだ一方で、依然として外資比率の制限や外資参入の条件が残されている業種も存在します。代表的な例は次のとおりです。
| 業種 | 外資出資の上限・条件 |
|---|---|
| 国内海運・内航海上輸送・国内航空運送 | 最大49% |
| 宅配・郵便等 | 最大49% |
| 新聞・雑誌など報道メディア | 設立時は内資100%、増資時に外資最大49% |
| 民間の有料放送局 | 設立時は内資100%、拡張時でも外資20%まで |
| 建設サービス | 67%(ASEAN加盟国からの投資は70%) |
| 商業銀行 | 単一外国株主上限99%(要許可) |
| 保険 | 80% |
運輸・輸送(国内交通)分野
インドネシア領内での国内海運業(国内航路の船舶運航)や内航海上輸送、国内航空運送業(航空会社)については、外資の出資比率は最大49%までと制限されています。これらの分野は「カボタージュ(沿岸航行権)」の概念もあり、多くの国で国内輸送は自国企業に限定される傾向があります。インドネシアも国内の海運・航空については外資が過半を握れないようにすることで、自国の運輸産業を保護しています。同様に宅配・郵便等のサービスも戦略分野と位置づけられ、外資49%までの制限対象に含まれます。
メディア・報道分野
新聞や雑誌の発行など報道メディア事業については、会社設立時には外資出資が認められず、100%内資でなければならないとされています。ただし事業拡大(増資)の段階で、外国資本の参加が最大49%まで認められる仕組みです。メディア企業が国内世論形成に与える影響力を考慮し、当初は完全にインドネシア人資本で設立させることで編集権などの主導権を確保しつつ、事業拡大時には国外からの資金導入も可能にするというバランスを取った規制です。
民間の有料放送局(テレビ局など)についても、設立時はやはり内資100%である必要があり、将来的な拡張時でも外資出資20%までという厳しい上限が定められています。放送・出版といったメディア分野は他分野に比べ外資規制が依然厳格で、海外企業が単独で参入することは難しい領域です。
建設業
インフラ整備など建設分野は、一旦ポジティブリストで外資規制が撤廃されたかに見えましたが、その後の実施規則において「建設事業への外資出資は67%まで(ASEAN加盟国からの投資の場合は70%まで)」との注記がなされました。これはリスクベースの許認可制度に関する政令(2021年第5号)に明記されています。
したがって、一般的な建設サービス業においては依然として外資は過半を超える出資ができない(地場企業との合弁が必要)という点に注意が必要です。ただし、この規制は主に建設セクター全体に包括的に適用される一般ルールであり、特定の大規模プロジェクトや高度な分野では個別に例外や優遇が認められる場合もあります。
金融・保険業
銀行業については銀行法など別途の個別法で出資比率規制があり、外資による銀行株式保有は単独株主としての上限など細かな規定があります(一般的に商業銀行への単一外国株主上限は99%ですが要許可制)。
保険業では2018年の大統領令(2020年改正)により、外資出資比率は80%までと規定されています。既存の非上場保険会社で施行時に80%超の外資比率だった場合は例外的に存続が認められていますが、新規参入や増資時にはこの80%ルールが適用されます。証券会社など他の金融業についても個別規制が存在するため、金融セクターへの投資を検討する際は業法ごとのルールを確認することが重要です。
M&Aの観点では、出資上限が残る業種で既存企業を買収する場合、取得できる持分の上限がそのまま経営権の範囲を決めます。株主間契約による意思決定の取り決めや、残りの持分を持つ現地パートナーの選定が、取引の中心論点になります。
日本企業が確認すべきこと
インドネシアは、ネガティブリストの撤廃とポジティブリストの導入により、外資規制を大幅に緩和しました。小売・物流・デジタル経済・インフラ・金融などの分野では、外資企業が単独で事業を展開できる機会が増加しています。政府の投資奨励策により、EV産業や再生可能エネルギーなどの成長分野では、外資企業に対する税制優遇や補助金が適用されるケースもあります。
一方で、メディア・運輸・保険・建設などの一部業種では依然として外資比率の上限が設定されており、合弁事業や特別許認可の取得が求められる場合があります。また、新首都ヌサンタラでは外資規制の適用緩和が検討されており、特定分野での投資機会が広がる可能性もあります。
進出やM&Aを検討する際は、次の点を確認しておくと判断がしやすくなります。
- 自社の事業がポジティブリストのどの区分に該当するか。複数の事業を行う場合、区分が混在しないか。
- 業法(銀行法、保険関連の大統領令、建設の政令など)による個別規制が上乗せされていないか。
- 買収対象の既存の許認可と株主構成が、取得後の出資比率で維持できるか。
- 中小企業との協業義務がある場合、既存の協業計画をどう引き継ぐか。
- 優先分野の優遇措置を受けるための投資規模や要件を満たすか。
見落としやすい点として、ポジティブリストで開放された分野でも、実施規則や業法で上限が復活している例(建設業)があります。リストの区分だけで判断せず、最新の実施規則まで確認することが必要です。
検討にあたっての論点
- 自社の事業は、外資100%の自社設立が可能な区分か、合弁や協業が前提になる区分か。
- 自社設立、合弁、買収のうち、規制と事業内容の両方に合う進出方法はどれか。
- 出資上限が残る業種の場合、現地パートナーに何を求め、株主間契約で何を取り決めるか。
- 買収対象企業の許認可・株主構成は、取得後も規制上維持できるか。
- 規制は改定が続くため、進出後に規制が変わった場合の対応を、契約や体制にどう織り込むか。
本記事の数値・制度は2023年7月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。
日本企業への示唆
外資規制は、進出できるかどうかだけでなく、どの方法で進出するかの判断に関わります。対象事業の規制区分によって、自社設立、合弁、既存企業の買収のどれが現実的かが変わります。M&Aを選んでも、出資比率の制限や許認可の承継は自動的に解消されるわけではなく、調査と契約で確認する事項になります。
- 対象事業の規制区分と出資制限:ポジティブリストの区分と、銀行・保険・建設など業法ごとの個別規制を専門家に確認する。
- 進出方法の比較:自社設立・合弁・買収を、事業内容と規制の両面から比べる。出資上限が残る業種では合弁の条件設計が中心論点になる。
- 買収時の確認:対象企業の許認可、株主構成、承継の可否。中小企業協業義務がある分野では協業計画の引き継ぎも確認する。
参入・事業拡大の選択肢
目的に応じて比較します。M&Aにも調査・契約・買収後の管理が必要です。
- 自社設立
- 自由度は高いが、許認可・人材・顧客をゼロから整える必要がある。
- 合弁
- 現地パートナーの基盤を使える一方、意思決定と出資比率の取り決めが必要。
- 買収(M&A)
- 既存の許認可・顧客・運営基盤を引き継げる。規制上の出資制限と、調査・契約・買収後の管理が前提になる。
検討前に確認したいこと
- 1進出したい事業は、ポジティブリストの4区分(優先、特定条件付き、中小企業協業義務、全面開放)のどれに該当するか。専門家に確認する。
- 2中小企業との協業義務がある分野の場合、協業計画書(パートナーシップ・コミットメント)に何を盛り込むか。
- 3出資上限が残る業種(運輸、メディア、建設、保険など)では、合弁パートナーの選定と株主間契約の条件をどう設計するか。
- 4買収の場合、対象企業の許認可、株主構成、出資比率は取得後も維持できるか。業法ごとの個別規制はないか。
- 5優先分野のタックスホリデーなどの優遇措置は、自社の投資規模で適用対象になるか。
この国で検討したいテーマと、当社の支援範囲・対応体制、相談から取引実行までの流れを説明しています。
インドネシアM&A・企業買収の支援内容を見る執筆
ReDelta Insights編集部
ReDelta Insights Editorial
編集部編集部
ReDelta Insights編集部は、日本企業の海外成長と海外M&Aの判断に役立つ知見を編集・発信します。市場、企業、取引実務の視点から、検討を深めるための問いを届けます。
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