インドネシアのノミニー制度とは?仕組み・適法性・リスク、そして外資規制との関係
インドネシアでは外国人が現地人名義で会社を保有するノミニー契約が広く使われてきましたが、投資法は名義借りを無効と定め、実質所有者の届出義務化と摘発強化でリスクは高まっています。仕組みと適法性、外資規制との関係、名義借りに頼らない進出方法、買収時に株主構成を確かめる方法を整理します。

この記事の要点
- 1投資法第33条はノミニー契約を無効と定め、外国人出資者は法的保護を受けられない。
- 22018年以降のUBO届出義務化により、名義貸しによる偽装は困難になっている。
- 3外資が過半数を持てない制限業種ほど、名義借りの誘惑が生じやすい。
- 4適法な選択肢は外資100%法人、合弁、フランチャイズ、ライセンス供与の4つ。
- 5買収では登記上の株主とUBO・資金出所の一致を確認し、是正を前提条件にする。
本記事は2023年7月時点の情報に基づきます。
インドネシアで事業を始めようとする外国企業が、現地人の名義を借りて会社を保有する「ノミニー制度」は、長年にわたり広く使われてきました。しかし投資法はこの名義借りを明確に無効と定めており、実質所有者の届出義務や摘発の強化により、リスクは年々高まっています。本記事では、ノミニーの仕組みと適法性、外資規制との関係、そして名義借りに頼らない進出方法と買収時の確認事項を整理します。
ノミニー制度の仕組みと利用される背景
ノミニー制度とは、外国人の事業者がインドネシア人個人やインドネシア企業の名義を借り、会社の株式や資産を保有するスキームを指します。登記上は名義人であるインドネシア人が株主となり、実質的な所有者である外国人は裏側で権利を保持します。
インドネシアでは法人設立に株主2名以上が必要とされ、外国資本が1%でも入れば外資法人(PT PMA)と見なされます。このため、外国人が実質100%支配の会社を内資法人として作ろうとすると、名義上インドネシア人のみの会社にせざるを得ず、事実上ノミニー契約による設立となります。
利用される主な理由は、外資規制と資本金要件の二つです。長年「ネガティブリスト」と呼ばれる業種別の参入制限があり、業種によっては外資出資比率が制限され、現地パートナーが不可欠でした。希望する出資比率で事業を始めるために、名義のみ現地人の会社を設立するケースがあったのです。
資本金の差も大きな要因です。外資法人には最低資本金100億ルピア(約1億円、2023年時点)の払込資本要件があり、2021年の法改正で2.5億ルピアから大幅に引き上げられました。複数事業を行う場合は事業ライセンスごとに資本拠出が必要とされ、負担は一層重くなります。一方、内資法人(PMDN)の最低資本金は1,250万ルピア(約11万円)とされ、資本力に余裕のない企業ほど名義貸しに流れやすい構造があります。
このほか、税負担の回避や実質オーナー情報の秘匿を目的とする利用も一部にあります。しかし、こうした行為は脱税やマネーロンダリングにつながるおそれがあり、当局からも問題視されています。
投資法は名義借りを「無効」と定めている
結論から言えば、インドネシア法はノミニー契約を明確に禁止しています。投資法(2007年法律第25号)第33条は、国内投資家および外国投資家が他人名義で株式を所有する目的の契約や声明を作成することを禁じ、そのような契約は法律上無効(null and void)とみなすと定めています。
これは名義上の所有者と実質的な所有者が異なる会社の発生を防ぐための条項です。外国人がインドネシア人に株式を持たせる秘密契約は、初めから法的効力を持ちません。実際、裁判所でもノミニーに関する合意はしばしば無効と判断されており、紛争時に法的手段で保護されない可能性が極めて高いといえます。
M&Aの観点では、この「無効」という帰結が重要です。対象企業の株式が実は名義人のものだった場合、買い手が譲り受けた株式そのものの有効性が争われかねません。株主構成の真正性は、価格以前に取引の成立可否を左右する論点です。
実質所有者(UBO)届出と摘発強化の流れ
近年、政府は名義貸しの摘発と防止を強化しています。2018年の大統領令第13号および2019年の法務人権省令第15号により、すべての法人に究極的実質所有者(Ultimate Beneficial Owner、UBO)の届出が義務化されました。登記上はインドネシア人のみの会社であっても、背後の最終的な所有者を政府が把握できる体制が整えられています。
インドネシアが金融活動作業部会(FATF)の勧告に沿って透明性を高める中、名義貸しによる偽装はますます困難になっています。加えて2021年には、オムニバス法(雇用創出法)による「ポジティブリスト」への転換で多くの分野の外資規制が緩和され、2023年にはその整備を経て同法が改訂・施行されました。外資誘致と法令順守の両立を政府が重視する流れの中で、違法なノミニースキームは以前にも増してリスクが高くなっています。
ノミニー利用に伴う4つのリスク
| リスク | 内容 | 典型的な帰結 |
|---|---|---|
| 法的リスク | 契約が無効のため、外国人出資者は法的保護を受けられない | 名義人が資産や経営権を自らのものと主張しても、法的に覆せないおそれがある |
| 背信・乗っ取り | 名義人が株式を第三者に譲渡する、事業を勝手に売却する | 関係悪化を機に事業を失う。バリ島などで配偶者・パートナー名義にした結果の事例が知られる |
| 金銭トラブル | 外国人から名義人への貸付という形式が多く、返済拒否や使途不明金が生じる | 会計・税務上の問題に発展する |
| 行政処分 | 当局の監視対象であり、発覚すれば事業許可の取り消しや罰金の可能性がある | 合弁への切り替えや事業再編を迫られ、最悪の場合は事業が頓挫する |
いずれも「信頼関係があるうちは表面化しない」点が共通しています。事業が軌道に乗った後や、逆に不振に陥った局面で顕在化しやすく、その時点では是正の選択肢が限られます。
外資規制との関係:制限業種ほど誘惑が生じる
2021年の法改正(オムニバス法/雇用創出法)により、インドネシアは従来のネガティブリストに代えて「ポジティブリスト」を導入しました。原則としてすべての業種で100%外資出資が可能となり、例外的に出資制限や参入禁止の分野が列挙される方式です。
もっとも、一部には制限業種が残っています。公開情報では、小規模事業や伝統産業など計69業種は引き続き外国人の出資が禁じられ、さらに26業種には出資比率の上限などの条件が課されているとされます(2023年時点)。
| 分野 | 外資に対する制限(2023年時点の公開情報) |
|---|---|
| ミニマーケット、屋台・零細店、コピー店など | 外資参入不可(現地の生計手段となる小規模事業) |
| 海運業、航空運送業、宅配・クーリエ | 外資出資比率は最大49% |
| メディア関連 | 新規参入時は100%地元資本。既存企業への増資でも外資は20%まで |
| 不動産(土地) | 外国人は原則として土地の完全所有権(Hak Milik)を持てない |
このような業種では、外資が事業を主導したくても法的に過半数株主になれません。そのため、違法と知りつつ名義人に株を持たせて事業を行おうとする誘惑が生じやすかったのです。宅配や報道・放送、通信の一部では、過去に外国企業が現地名義人を立てて実質経営していた例があったとされます。不動産分野でも、土地をインドネシア人個人の名義で購入する形のノミニー契約が長年行われてきました。
買い手の立場では、対象企業がこうした制限業種に属する場合、株主構成が「制限を回避するために作られたもの」でないかを疑う必要があります。制限業種で内資100%の会社に外国人が深く関与している場合は、特に注意が必要です。
名義借りに頼らない進出方法
日本企業がノミニーに頼らず合法的に進出する選択肢は、大きく4つに分けられます。
| 進出方法 | 適する状況 | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 外資100%の現地法人(PT PMA) | 事業分野が外資にフルオープンの場合 | 最低資本金100億ルピアを用意し、OSSで投資許可・法人設立を行う。ビザ取得や現地雇用義務などのルールがある |
| 現地パートナーとの合弁(JV) | 外資比率制限がある場合、資本要件の負担を軽くしたい場合 | 出資比率に即した経営権・利益配分を実質的にも行う。株主間契約で役員構成や重要事項の決定方法を定める |
| フランチャイズ契約 | 直接出資できない業種でブランド展開したい場合 | 現地事業者にブランドやビジネスモデルの使用権を供与する。株主にならないため外資規制に抵触しない |
| ライセンス供与・技術提携 | 特定製品の製造やサービス提供に限定して展開する場合 | 初期投資を抑えられるが直接統制が利きにくい。相手の見極めが重要 |
合弁を選ぶ場合の要点は、名義貸しのように裏契約で外国側100%支配とするのではなく、公式な株主間契約(Joint Venture Agreement)で互いに納得した協力関係を築くことです。信頼できる現地パートナーの選定と透明性の高い契約スキームにより、違法性を回避しつつ現地ネットワークやノウハウを活用できます。
M&Aによる参入は、これらの方法のいずれとも組み合わせられます。既存企業の株式を取得する場合でも、取得後の株主構成が外資規制に適合しているか、必要な資本要件を満たせるかは、新規設立と同じ基準で確認する必要があります。
買収候補にノミニーが潜んでいないかを確かめる
既存企業を買収する日本企業にとって、最も見落としやすいのは「対象企業自体がノミニースキームの上に成り立っている」ケースです。登記上の株主と実質的な資金の出し手が異なれば、買い手が取得する株式の有効性や、取得後の経営権に疑義が生じます。
デューデリジェンスでは、次のような項目を確認することが有効です。
- 登記簿上の株主と、UBO届出の内容が一致しているか。
- 株式取得時の払込資金の出所が、株主本人の資金として説明できるか。
- 株主と第三者の間に、株式に関する貸付契約、質権設定、白紙の譲渡書、議決権委任状などが存在しないか。
- 対象企業の事業(KBLI分類)が制限業種に該当する場合、株主構成がその制限と整合しているか。
- 土地・建物が個人名義で会社が使用している場合、その法的根拠は何か。
疑義が残る場合は、取引前にスキームを適法な形に是正すること(例:正式な合弁への組み替え)を取引の前提条件とするのが現実的です。是正できないのであれば、価格ではなく取引そのものを見直す判断が必要になります。
検討にあたっての論点
- 進出したい事業のKBLI分類は、外資100%が可能な区分か、出資上限や参入禁止の対象か。
- 最低資本金100億ルピアを含む外資法人の要件を、事業規模と投資対効果に照らして受け入れられるか。
- 合弁を選ぶ場合、出資比率どおりの経営権配分を本当に受け入れられるか。裏契約で支配を確保しようとしていないか。
- 買収候補の登記上の株主と実質所有者は一致しているか。是正が必要な場合、それを取引の前提条件にできるか。
- 土地・不動産を伴う事業で、個人名義の資産に事業が依存していないか。
本記事の数値・制度は2023年7月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。
日本企業への示唆
ノミニー制度の説明は、その利用を勧めるものではありません。日本企業にとって重要なのは、進出したい事業が外資出資の認められる区分かを確認し、事業内容に適合する適法な方法を選ぶことです。買収では、対象企業自体が名義借りの上に成り立っていないかが、取引の成立可否を左右します。
- 事業区分と外資出資の可否を、KBLI分類に基づいて専門家に確認する。
- 自社設立・合弁・買収・フランチャイズを、規制と資本要件の両面から比べる。
- 買収候補の株主構成は、登記・UBO届出・資金出所の三点で名義と実質の一致を確かめる。
検討前に確認したいこと
- 1進出したい事業のKBLI分類は外資100%が可能か、出資上限・参入禁止の対象か。
- 2最低資本金100億ルピアなど外資法人の要件を、事業規模に照らして受け入れられるか。
- 3合弁を選ぶ場合、出資比率どおりの経営権配分を実質的にも受け入れられるか。
- 4買収候補の登記上の株主と、実質所有者・資金出所は一致しているか。
- 5個人名義の土地・不動産に事業が依存していないか。
この国で検討したいテーマと、当社の支援範囲・対応体制、相談から取引実行までの流れを説明しています。
インドネシアM&A・企業買収の支援内容を見る執筆
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