外国人技能実習制度を“ゼロから理解”──なぜ増えているのか?
1993年に導入された外国人技能実習制度は、日本の労働力不足を補う手段として定着し、技能実習生は2024年末時点で約47万人と10年前の3倍以上に増えました。増加の背景にある3つの理由、受け入れに関わる費用負担の構造、2027年の育成就労制度への移行、そして関連事業への投資を検討する際の確認点を整理します。

この記事の要点
- 1技能実習生は2024年末で約47万人。2030年に約419万人、2040年に約674万人の労働力不足が推計されている。
- 2増加の背景は日本の人手不足、送り出し国との賃金格差(月収は日本の約1/4)、優良認定制度と育成就労の後押し。
- 3実習生の自己負担は平均約52万円だが、ベトナム約65万円、インドネシア約23万円と国による差が大きい。
- 4外資規制はベトナムが送り出し機関への参入不可(前渡航学校は100%可)、インドネシアは送り出し機関に最大49%。
- 5買収前はEBITDA率20%以上、保証金の満額預託、ライセンス残期間と優良認定、失踪率1%未満を確認する。
本記事は2025年7月時点の情報に基づきます。
外国人技能実習制度は1993年に、日本の技能を海外に移転し「人材育成を支援する」ことを目的に導入されました。しかし現在は、日本国内の深刻な労働力不足を補う手段として重要な役割を果たしており、技能実習生は2024年末時点で約47万人と10年前の3倍以上に増加しています。本記事では制度の仕組み、実習生が増える理由、費用負担の構造を整理し、関連事業への投資を検討する際の確認点をまとめます。
技能実習制度とは
技能実習制度は、開発途上国への技能移転を建前とする制度ですが、実態としては日本の現場を支える労働力確保の仕組みとして機能してきました。2027年には「育成就労制度」へと移行します。この変更により実習生の転籍が認められ、企業の負担も増えるなど、制度はより実質的な労働力確保の手段へと変わります。
改正入管法と育成就労制度
2024年6月の改正入管法の成立により、技能実習は2027年までに「育成就労制度」へ全面移行します。新制度の主要ポイントは次のとおりです。
| 区分 | 現行(技能実習) | 改正後(育成就労) |
|---|---|---|
| 在留期間 | 最長5年(1号〜3号) | 最長3年+特定技能1号へ移行可能 |
| 転籍 | 原則禁止 | 3年間で最大2回可能(1回目は理由不要、2回目は本人希望可) |
| 費用負担 | 実習生が渡航費・講習費を負担 | 企業が原則負担(実習生の借金負担を軽減) |
| 管理機関 | 監理団体(協同組合等) | 監理支援機関へ格上げ、外部監査の義務化 |
| 行政監督 | 技能実習機構(OTIT) | 外国人育成就労機構(転籍支援・相談を強化) |
| 計画認定 | 技能実習計画 | 育成就労計画(技能目標・教育体制・費用を明示) |
これにより、建前の「人づくり」から、実質的な「人材確保」へと舵が切られます。関連事業への投資を考える場合、費用負担の主体が実習生から企業に移る点が、収益モデルに最も大きく影響します。
技能実習生が増える3つの理由
日本側のニーズ:深刻な労働力不足
経済産業省の推計によると、2030年には約419万人、2040年には約674万人の外国人労働力が不足するとされます。特に建設、食品製造、機械・金属加工など現場系3業種で人手不足が深刻さを増しています。
公開情報による技能実習生の職種別の人数と割合(2025年時点)は次のとおりです。
| 業種 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 建設 | 106,568 | 23.3% |
| 食品製造 | 92,627 | 20.3% |
| 機械・金属加工 | 60,781 | 13.3% |
| 農業 | 49,901 | 10.9% |
| 繊維・衣服 | 38,214 | 8.4% |
| その他69職種 | 120,000弱 | 24% |
送り出し国のメリット:賃金格差と外貨獲得
送り出し国であるベトナムやフィリピンの月収は、日本の約1/4程度にすぎません。この賃金差が日本を目指す動機となっています。また、海外送金がGDPに占める割合は非常に高く、国家レベルで送り出しを推進しています。
制度の後押し:優良枠と育成就労制度
2019年以降、失踪率や残業時間などの基準を満たした監理団体の受け入れ枠が2倍になる「優良認定制度」が導入されました。さらに、2027年の育成就労制度により企業が長期的な雇用を見込めることから、受け入れ拡大が進んでいます。
受け入れから帰国までの流れと費用負担
技能実習生が日本で働くまでには、複数の事業者が関わります。各レイヤーの機能、費用を負担する主体、公開情報に基づく想定粗利率は次のとおりです。
| レイヤー | 主な機能 | 費用負担 | 想定粗利率 |
|---|---|---|---|
| 前渡航学校 | 日本語・安全衛生教育120〜360時間 | 実習生→学校(学費18〜45万円+寮費) | 25〜35% |
| 送り出し機関 | ビザ・渡航手続き | 実習生→機関(手数料約27万円) | 40% |
| 入国後講習 | 日本語・法令教育160時間 | 企業→センター(8〜12万円) | 20% |
| 監理団体 | 管理・監査・通訳 | 企業→監理団体(月3〜5万円) | 25% |
| 受入企業 | OJT・賃金支払 | 企業→実習生(最低賃金以上) | - |
実習生の自己負担平均は約52万円ですが、ベトナムは約65万円、インドネシアは約23万円です。この差は、各国の送り出し制度や斡旋手数料の設定が異なるためです。
M&Aの観点では、どのレイヤーが「誰から」収益を得ているかが重要です。実習生から回収するレイヤー(前渡航学校、送り出し機関)は、育成就労制度で費用負担が企業に移った後、回収先の変更を迫られます。
M&A視点で見るチャンスと注意点

利益が出やすい事業領域
- 前渡航学校:学費を前払いで回収でき、VR研修などで単価を引き上げられます。
- 監理団体:月次管理費で安定収入を得られ、優良認定を受ければ収益が大幅に増えます。
各国の外資規制
- ベトナム:送り出し機関への外資参入は不可のため、投資対象は前渡航学校になります。前渡航学校は100%買収が可能です。
- インドネシア:送り出し機関への外資出資は最大49%まで可能です。
外資規制は「どのレイヤーを、どの持分で取得できるか」を直接決めます。送り出し機関を支配下に置けない国では、前渡航学校の取得と送り出し機関との業務提携を組み合わせる設計が現実的です。
買収前の4つのチェックポイント
EBITDA率20%以上
EBITDA(営業利益+減価償却)は企業のキャッシュ創出力を示します。技能実習関連ビジネスは表面的な粗利が高く見えても、学費の割引競争や送金手数料のキックバックによって実質的な収益性が低い場合があります。EBITDA率が20%を下回る企業は、買収後に施設改修や講師の増員といった再投資が必要となり、収益回復が難しい可能性があります。
保証金の残高確認
保証金が満額で預託されているかを確認します。特にベトナムの送り出し機関では、法律で約120万円(2億VND)の保証金を銀行に預託する義務があるとされます。保証金が不足している場合、過去に雇用トラブルを起こし、保証金を取り崩した可能性があります。残高不足はライセンス停止や再取得のリスクにもつながるため、デューデリジェンスで必ず確認が必要です。
ライセンス期間と優良認定
送り出し機関や監理団体は3〜5年ごとにライセンスを更新します。買収時点で残期間が1年未満の場合、買収後すぐに更新手続きが必要となり、予想外の追加コストが発生します。また、OTITの優良認定を取得していなければ受け入れ枠の拡大が難しく、買収後の収益成長が制限される可能性があります。
失踪率1%未満
ESG(環境・社会・ガバナンス)監査では、技能実習生の失踪率が最も注目されます。業界平均の1.9%を超える場合、労務管理や賃金体系に深刻な問題がある可能性が高く、レピュテーションリスクや事業の継続性に悪影響を及ぼすおそれがあります。
安定収益と成長を両立する戦略

育成就労制度により技能実習市場は引き続き拡大すると見込まれます。前渡航学校の前払い収益と、監理団体の月次ストック収入の確保が、安定した事業基盤の鍵です。
さらにVR教育、フィンテック、ESG対応など、テクノロジーや管理体制を強化すれば、収益と企業価値の向上が期待できます。ただし、制度移行期は既存の収益モデルの前提が変わる時期でもあります。対象事業の収益が「実習生からの前払い回収」に依存している場合、移行後の再現性を慎重に見極める必要があります。
検討にあたっての論点
- 投資対象は前渡航学校、送り出し機関、監理団体のどのレイヤーか。各国の外資規制で取得できる持分はどこまでか。
- 対象事業のEBITDA率は20%以上か。学費割引や送金手数料のキックバックで実質収益が下がっていないか。
- 送り出し機関の保証金は満額預託されているか。ライセンスの残期間と優良認定の有無はどうか。
- 対象事業の失踪率は1%未満か。業界平均を超える場合、労務管理の問題をどう評価するか。
- 育成就労制度への移行後、実習生から回収していた費用が企業負担に移っても収益が再現できるか。
本記事の数値・制度は2025年7月時点の公開情報に基づきます。最新の制度・統計は一次情報で確認してください。
日本企業への示唆
技能実習関連ビジネスは、日本の人手不足と送り出し国の賃金格差という構造的な需要に支えられています。一方で、費用負担の主体が実習生から企業へ移る制度変更は、前渡航学校や送り出し機関の収益モデルの前提を変えます。日本企業が関連事業に投資する場合は、制度移行後の再現性を軸に評価する必要があります。
- 前渡航学校(前払い収益)と監理団体(月次ストック収入)は収益が安定しやすいが、外資規制で取得できる持分が国ごとに異なる。
- EBITDA率、保証金、ライセンス残期間、失踪率の4点は、買収後の再投資と成長余地を左右するため必ず確認する。
- 育成就労制度への移行で費用負担者が変わるため、現在の収益が「実習生からの回収」に依存していないかを検証する。
検討前に確認したいこと
- 1投資対象は前渡航学校、送り出し機関、監理団体のどのレイヤーか。各国の外資規制で取得できる持分はどこまでか。
- 2対象事業のEBITDA率は20%以上か。学費割引や送金手数料のキックバックで実質収益が下がっていないか。
- 3送り出し機関の保証金は満額預託されているか。ライセンスの残期間と優良認定の有無はどうか。
- 4対象事業の失踪率は1%未満か。業界平均1.9%を超える場合、労務管理の問題をどう評価するか。
- 5育成就労制度への移行後、実習生から回収していた費用が企業負担に移っても収益が再現できるか。
執筆
ReDelta Insights編集部
ReDelta Insights Editorial
編集部編集部
ReDelta Insights編集部は、日本企業の海外成長と海外M&Aの判断に役立つ知見を編集・発信します。市場、企業、取引実務の視点から、検討を深めるための問いを届けます。
- 海外成長戦略
- 候補企業の探索
- 取引実行


